(英フィナンシャル・タイムズ紙 2020年10月31日・11月1日付)

トランプ大統領が去った後の米国は、世界はどのようになるのだろうか

 ウォーターゲート事件の物語が1974年のリチャード・ニクソン大統領辞任で幕を下ろした後、話すことがなくなったという理由で離婚した夫婦がいたと言われている。同じような空白が今、多くの人々に迫りつつある。

 私たちはこれまで、最も可能性の高いシナリオ――ドナルド・トランプ氏が来る大統領選挙で敗れ、しばらくごねてから退くという展開――が実現したら何が起こるか、あえて想像しないようにしてきた。

 トランプ氏が去った後、同氏の支持者や反対派は、新しい話題のみならず、新しいアイデンティティーを見つけることができるのだろうか。

「トランピズム」(トランプ大統領の政治思想や統治スタイル)は果たして生き残れるのか。

 そして、トランプ氏の退任を機に世界規模のポピュリスト・ブームが弾けることになるのだろうか。

化学兵器になったトランプ大統領

 現代の米国大統領はいずれも世界中の人々の頭の中で生き続けているが、トランプ氏ほど大きな地所を占有している人はいない。

 事実、世界中の人々の関心をリアルタイムでここまで引きつけた人物は、過去の歴史を振り返っても一人もいない。

 トランピズムの心酔者は、リベラル派が「トランプ錯乱症候群」に陥っているとあざ笑うことが多いが、どうすればそうならずにいられようか。

 何しろ世界一大きなメガホンを手にしたこの人物は、この4年間、私たちの頭脳をウソや悪口、人種に基づくいじめなどで汚染し、その言葉に耳を傾けた人すべてをさらに愚かで偏執的にしてしまったのだから。

「トランプ氏の調節不全、つまり四六時中感情が高ぶっていることが我々に伝染した」

 トランプ氏の自伝『The Art of the Deal』のゴーストライター、トニー・シュウォーツ氏はこう語る。

 バラク・オバマ前大統領は、もしトランプ氏が去ったら「とにかく、こんなに消耗する日々にならない。サンクスギビング(感謝祭)の夕食を口論せずに食べられるようになるかもしれない」と請け負っている。