(英エコノミスト誌 2020年10月31日号)

ドナルド・トランプ氏にもうこれ以上ホワイトハウスに居てもらっては世界が困る

ドナルド・トランプは米国を世界の指針たらしめている価値観を冒涜した。ジョー・バイデンは修復と再生の見通しを与えてくれる。

 2016年にドナルド・トランプ氏を大統領に選んだ米国は、不幸で分断された国だった。そして今日、トランプ氏が自分を再選するよう求めている米国は、さらに不幸で、さらに分断されている。

 ほぼ4年にわたるトランプ氏のリーダーシップの後、政治はなお一層怒りを強め、党派心の抑制はなお一層きかなくなっている。

 日々の暮らしは、23万人近い死者をもたらした新型コロナウイルスのパンデミックによって破壊され、口論や責任転嫁、ウソが蔓延している。

 その大半はトランプ氏によるもので、11月3日の大統領選挙で同氏が勝利を収めれば、こうしたことがすべて是認されることになる。

 対抗馬のジョー・バイデン氏は、米国の病をたちまち治してくれる魔法の薬ではない。しかし善良な人物であり、ホワイトハウスに堅実さと礼節を取り戻してくれるだろう。

 分断された国家を再度一つにまとめるという、長い時間を要する困難な仕事に取り組む能力もある。

 もし本誌エコノミストに投票権があったなら、バイデン氏に1票を投じるのは、そのためだ。

ドナルド王

 トランプ氏は米国政府のトップとしての役割を十分に果たしていないが、それ以上に、国家元首として失格だ。

 トランプ氏とトランプ政権は過去の政権と同様に、政治的な勝利や敗北にどれほど尽力したかを主張することはできる。

 しかし、米国の価値観、米国の良心、そして世界における米国の発言力という3点の守護者としては、求められる基準を著しく下回る働きしかしていない。

 新型コロナウイルス感染症「COVID-19」がなかったら、トランプ氏は自らの政策によって2期目を勝ち取っていたかもしれない。

 国内では減税と規制緩和を行い、保守派の判事を数多く任命した。

 パンデミックの発生前は、下から数えて4分の1に入る低所得者層の労働者の賃金が年4.7%のペースで伸びていたし、小企業の景況感はほぼ30年ぶりの高水準に達していた。移民を制限し、支持者の期待に応えた。

 国外では、何かと混乱をもたらすアプローチが歓迎すべき変化をもたらしたこともあった。過激派組織イスラム国(IS)を叩き、イスラエルとイスラム教国家3カ国との和平合意を仲介した。

 北大西洋条約機構(NATO)の同盟国の一部は、ようやく防衛費の増額に動いている。また中国政府は、ホワイトハウスが今では中国を手強い敵だと認識していることを承知している。