(英フィナンシャル・タイムズ紙 2020年10月23日付)

トランプ大統領が破壊してしまったものを再生させることはほぼ不可能だ

 ドナルド・トランプ大統領以前の世界に戻ることはできない。しかし、4年前にホワイトハウスを手に入れたデマゴーグが去った後にもこの世は続く。

 世論調査は、トランプ氏が1期限りの大統領で終わるとの見方で一致しているように見える。難点があるとすれば、それは世論調査が2016年の選挙の時もこぞって同じ方向を指し示していたことだ。

 いずれにせよ、民主党候補のジョー・バイデン前副大統領の手によってトランプ氏が敗北しても、トランピズムは根絶されない。

 トランプ氏は、米国が急に内向きになったこと、エリートへの怒りが噴出したこと、さらにはあまりにも簡単に排外主義と結びつくいわゆるグローバリズムへの反発が起こったことの原因であると同時に、症状でもあるからだ。

 現職打倒を目指して運動している人々――民主党支持者はもとより、自らの原理原則を曲げずにきた伝統的な共和党支持者たち――からは、黒板は拭き取ればきれいにできるという印象が伝わってくることが時折ある。

もう後戻りできない変化

 悪党がいなくなれば悪夢はいずれ記憶の彼方に消えていく。憲法が適切に機能すれば米国の民主主義に及んだダメージも回復するし、米国はリベラルな国際秩序のリーダーとしての使命を再発見する、というわけだ。

 これはしかし、米国内政治の秩序回復と、国際情勢における後戻りのできない変化をすっ飛ばした議論だ。

 米国社会に刻まれた深い溝、白人至上主義者からの支持にご満悦な大統領によって焚きつけられ、利用された分断に橋を架けるのは容易ではない。

 また米国の中間層が、自分たちに有利だとはもう言えなくなった世界の通商システムに対して、以前のような好感をすぐに抱くことも考えにくい。

 中国の台頭により、グローバルシステムのパワーバランスに非可逆的な変化が生じた。