(英エコノミスト誌 2020年10月17日号)

アレクセイ・ナワルニー氏(2019年2月撮影、写真:AP/アフロ)

ロシアの野党勢力のリーダーは、これまで以上に強くなった。

 ロシアのカリスマ的な野党勢力指導者アレクセイ・ナワルニー氏はかねて、ハリウッド映画のヒーローのような雰囲気を醸し出していた。

 本人も、演説のなかで娯楽映画を引き合いに出して話を分かりやすくするのを好む。

 神経剤「ノビチョク」を盛られたシベリアから、3週間の昏睡から目を覚ましたベルリンの病院までの移動を振り返った同氏は、ここまでの展開が映画のようであることに気づいている。

 民衆のヒーローが邪悪な独裁者に挑み、独裁者は謎の毒薬でヒーローを殺害しようとする。だが、誠実な友人たちや献身的な妻のおかげで生き返る――。

「政治スリラーもののような出だしで、途中でロマンティック・コメディーに変わるんだ」

 ベルリンで本誌エコノミストのインタビューに応じたナワルニー氏はこう語った。

「死の淵」は政治家のためになる

 だが、首筋に管を差し込んだ際の傷跡、やつれた表情、手の震えや不眠などはハリウッド映画にしては少しリアルすぎる。

 また、最も大きな変化はもっと分かりにくいところにある。「逆説的だが、私は以前より思いやりのある人間になった。感傷的ですらあるかもしれない」と言う。

 人工衛星によって最近撮影された、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争で軍事用ドローンが標的を攻撃するシーンを見た時に、次のようなことを考えている自分に驚いた。

「ちょっと待て。この黒い点は人間だ。多分両足を失ったばかりで、空を見つめているんだ・・・死というものを一度のぞき込んでみることは、政治家のためになると思う」と話す。

 8月20日にシベリア発モスクワ行きの飛行機のなかで命を落としかけたナワルニー氏は、文字通り死の淵をのぞき込んだ。

 療養のために現在滞在しているベルリンの家の外に大勢の警官がいることが示すように、同氏はまだ、毒殺を命じた(あるいは承認した)と広く信じられている人物からの脅威に直面している。