10月15日、トランプ大統領、バイデン候補の双方がタウンホール形式の会合を実施した(写真:ロイター/アフロ)

 選挙日まで2週間を切るなど最終盤にかかっている米大統領選。だが、罵詈雑言を繰り出すだけの討論会や大統領自身のコロナ感染など、2016年にも増してカオス感が漂っている。民主主義のフロントランナーとして世界の羨望を集めた米国の姿とは思えない状況だ。その背景には、米国の民主主義が抱える構造的、制度的欠陥があると元外交官で、神戸情報大学院大学教授の山中俊之氏は語る。

 討論会での罵倒、選挙結果について係争化した場合に有利に運ぶための連邦最高裁判事の指名、感染症を軽視した大統領の感染と政権幹部の感染拡大・・・。

 多くの人が、米国の大統領選挙の体たらくを驚きと嘆きをもって見ているのではないか。あるいは、スリリングな映画でも見ている気持ちで好奇の目で眺めているのではないか。かつては民主主義(デモクラシー)のモデルとも考えられていた米国の民主主義が揺れている。

 本稿では、歴史上の経緯にも光を当てつつ、米国の民主主義の脆弱性について3つの点を改め指摘して、21世紀型の民主主義に進化させていくための方策について考えたい。

デモクラシーを体現した米国

 デモクラシーという言葉は、古代ギリシャ語で人民・大衆を示す「デーモス」と権力・支配を意味する「クラトス」が合わさってできた言葉であると言われる。人民や大衆が政治権力の主体であることを示しているのだ。

 原始時代を除くと、近代以前は、古代ギリシャ・ローマの一時期や預言者ムハンマド死亡後の正統カリフ制など一部例外はあるが、多くの政治権力は世襲であった。

 政治権力は、親から子へ、子から孫へと伝わるものであった。直系後継者がいない場合に、甥やいとこ、遠縁の親族・姻族への継承もあった。いずれにしても、血統や婚姻が大きな影響をもっていたと言える。

 政治権力は世襲されるという大原則を破ったのは、英国から独立した米国である。本格的に人民や大衆が政治権力の主体であるデモクラシーを体現したのが米国だ。