肩や首の凝り、頭痛、目の疲れや痛み、口内炎、寝つきの悪さ、熟睡感がない、気分が塞ぐ・・・ワークもライフも忙しく、パソコンやスマホといった電子機器を日々覗き込むビジネスパーソン達は、こういった不調を抱えている人が多いのではないだろうか。そして、こうした「不定愁訴」とされる症状をいくつも自覚しながら、「激務だったから」「年を取ったから」ということで自分を納得させようとしたりしてはいないだろうか。

 実はこれらの不定愁訴は、普段何気なくしている行為(目をこする、顔を拭く、目尻を引っ張る)の積み重ねが原因となっている場合があるという。

「こうした不定愁訴の多くは『眼瞼下垂』を治療すると解消されることがあるのです。私自身が身をもって経験しました」(松山市民病院形成外科で眼瞼下垂外来を担当する手塚敬医師)

「眼瞼下垂」(がんけんかすい)とは、上まぶたがたれ下がってきて眼球を覆い、見えにくくなる病態とされてきた。原因には先天性眼瞼下垂(生まれつきまぶたが下がっている状態で、目が細く視野が狭い)、後天性眼瞼下垂(年を取るにつれてまぶたが開かなくなった状態)が主である。しかし、自覚がない、人が見て(時には眼科医が見ても)眼瞼下垂と分からない状態でも、不定愁訴の原因となっていることがあり、後天性眼瞼下垂は分かりにくいものだという。

 眼瞼下垂は体にどのような不調を引き起こすのか、そしてその治療の実態と効果について、手塚医師に聞いた。(聞き手・構成:坂元希美)

なぜ眼瞼下垂になるのか

――後天性の眼瞼下垂は、どのような原因で起こるのでしょうか。

手塚敬氏(以下、手塚) ハードコンタクトレンズを長期使用していたり、アレルギーなどで目を頻繁にこすったりする人に多いとされていますが、実はまぶたを開ける筋肉は年齢とともに変わっていくものなので、宿命的に誰もが眼瞼下垂になります。生まれてから少しでもまぶたをこすったら後天性眼瞼下垂が始まり、少しずつ開かなくなる状態に近づいていくのです。まぶたの重さや硬さといった構造、目の周囲の筋肉のバランス、神経細胞間の信号の量、脳の感受性、社会的な立場などによって症状はさまざまで、全く症状が出ない方もおられますが、早いと10歳くらいで発症する方もおられます。

――まぶたを開ける筋肉が変わる、とはどういうことでしょうか?

手塚 生まれてしばらくは、上眼瞼挙筋と挙筋腱膜の腱(=腱膜)がつながって瞼板(まぶたの支持組織)をひっぱることで目を開けています。しかし、年を重ねるにしたがって挙筋腱膜は弱くなり、瞼板から外れていきます。そうなると上眼瞼挙筋と瞼板をつなげているもう一つの組織のミュラー筋を強くして、まぶたを開けるようになります。挙筋腱膜とミュラー筋の交代はいきなりではなく、だんだん力のバランスが変わっていくイメージです。まぶたを開ける行為は同じですが、生理学的に変わっていくのです。

【図1】まぶた内部の仕組み(松山市民病院 手塚敬医師提供)
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なぜさまざまな不調が起こるのか

――まぶたを開ける仕組みが変わると、体調不良が引き起こされるのですか?

手塚 ミュラー筋は自律神経の一つである交感神経によって作動します。下垂が進んだ人は普通に目を開けた状態にするためには交感神経を興奮させてミュラー筋を強くしなければならず、目を開けているだけで常に交感神経が活発になってしまうのです。

 そもそも、ミュラー筋の中にはミュラー筋機械受容器というセンサーがあり、これが脳幹の中にある青斑核(せいはんかく)という神経核を刺激してしまうことで、覚醒・筋緊張・交感神経緊張を引き起こす原因となります。要するに、ミュラー筋のがんばりすぎや不具合がさまざまな病的な状態を引き起こすことになってしまうのです。