(英フィナンシャル・タイムズ紙 2020年10月9日付)

先進国内にも広がる貧困と格差は民主主義を脅かしている

 筆者が今年に入って目にした、世界の民主主義の先進国についての発言の中で最も思慮分別に富む指摘だと感じたのは、スパイによるものだった。

 英国秘密情報部(通称MI6)長官を先日退任したアレックス・ヤンガー氏は、西側社会を転覆させようとするロシアなどの取り組みに過剰反応すべきではないと警告した。

 もちろん、同氏が率いてきたような部署はその種の作戦に立ち向かわなければならない。しかし、問題はモスクワで始まったり終わったりするわけではない。

跋扈するストロングマン

 民主主義の退潮を嘆く話が、私たちの時代の物語としてよく取り上げられている。理由はお分かりだろう。

 世界のどこを見渡しても、暴力の使用をいとわない「ストロングマン」を自称する政治指導者がリベラルな価値観を蔑んでいる。

 冷戦終結後の時代に見られた民主主義の進軍は、退却に転じてしまった。

 恥じ入る様子を全く見せない独裁者の仲間には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領や中国の習近平国家主席に加え、トルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領やインドのナレンドラ・モディ首相のような反リベラルなナショナリストがいる。

 欧州連合(EU)にもハンガリーのオルバン・ビクトル首相という、ポケットサイズだが強権的な指導者がいる。

 ポーランドの与党「法と正義」は、裁判所判事の独立性を損ねた疑いでEU当局の調査を受けている。ポピュリスト政党は主流派のエリートたちを欧州全域で揺さぶっている。

 そして最悪なことに、世界で最も強力な民主主義国である米国には、ドナルド・トランプ大統領という、法の支配を蔑んでも全く悪びれたところを見せない独裁者のなり損ないがいる。