文=吉村栄一

2016年ヨルダン都市難民のご自宅にて(撮影=佐藤慧)

──SUGIZOさんの難民支援の活動の中で興味深いのは現地で演奏もしているということだと思います。きっかけはなんだったんでしょう?

「そうですね、ヨルダン、パレスチナ、イラクと、難民キャンプに行くたびに音楽を演奏しています。当然ながら難民キャンプに演奏をしにくる人というのはほとんどいないので、やるたびにみんなキラキラと目を輝かせてくれる。最初のヨルダンの2つのシリア難民キャンプを訪れたときは、自分は音楽家という意識ではなく、ただの一支援者という気持ちで難民キャンプの視察に行きました。ある意味軽い気持ちだった。もちろん、そこで音楽を披露しようなんていう気持ちは微塵もありませんでした。難民キャンプにいる人達はみな命からがら祖国を出て、やっとの思いでここにたどり着いた人たち。生活の保証も未来の展望も失われてしまっている人達の前で音楽を演奏するなんて不謹慎なのではないか、という誤解があったんですね」

──ところが?

「実際に行くことになったとき、あなたは音楽家なんだからぜひ現地で演奏もしてほしいというリクエストをいただいたんです。えっ?! という半信半疑の気持ちだったんですが、いざ現地で音楽を奏でてみたらすごく喜んでもらえた。そうか、ここで音楽を演奏するということは不謹慎なことじゃないんだ、むしろ逆なんだと気づいたんです。みんな娯楽をすごく求めている。難民キャンプで生きるということは最低限の衣(医)食住は保証されている毎日。苦しく不自由が多い生活ではあるのだけど、人間って最低限の生活が成り立つと、次は心の潤いを求めるんだと思います。その潤いのひとつが芸術であり、音楽でもある。もちろんスポーツでも映画でもゲームでも、お芝居でもいい」

──なるほど。

「そのときのヨルダンで、難民キャンプの人たちは日々生きる上で心の潤いを必要としているんだということが身に染みてわかって、これからは世界中の難民キャンプで演奏したいと心に決めました。それが2016年」

──しかし、演奏するといっても、現地の状況など行く前はなかなかわからないから、準備も大変なんじゃないですか?

「実際、最初のアズラック難民キャンプでの演奏は、電気が使えなかったから完全に生楽器での演奏でした。ヴァイオリンとアコースティック・ギター、そして電池で起動するスピーカー付きのキーボード(笑)」

2018年パレスチナの難民キャンプでコンサート(撮影=佐藤慧)

──そこでどういう音楽を演奏しているんでしょう?

「自分の曲もやったんですが、それよりも日本の有名な曲や、現地でよく知られているアラブの歌。それだとみんな歌える。また、2017年にパレスチナに行ったときは現地の人から正式な文化交流をしたいというオファーをもらって、ある街の文化会館のようなところで音響や照明もあるコンサートもやりました。その数日後にはまた難民キャンプで演奏したときは、そのキャンプのある街のアート・センターのようなところでやりました。ちょっとしたPA機器もあるようなところ。学校の視聴覚室レベルのもので決して状況はよくないですけど、自分たちで配線して」

──だんだん環境がよくなってる!

「そう、そして去年のイラク、イラクと言ってもクルド人自治区なんですけど、そこでは現地の仲間がコーディネートしてくれたおかげで、照明器具やPAを使いました。もちろん、それでも日本では結婚式の余興に使うレベルのものですけど(笑)」

──でも、そういったセットがあるのとないのとじゃ、けっこうちがいますよね。

「音楽を伝える上では大きな助けになりました。ところどころ妥協はしてもちゃんと音楽を伝えられる環境が整いつつあるのはうれしいですね」

2019年ヨルダンのザータリ難民キャンプにて(撮影=田辺佳子)

──そのクルド人自治区でのコンサートって、どういう感じだったんでしょう?

「まず自分のSUGIZOミュージックでダンス音楽をガンガンやると、みなすごく踊ってくれる。僕の音楽って、どこか中東の人の琴線に触れる部分があるんじゃないかな」

──ありますね。旋律だったり音色に中東が感られることもよくありますし。その自作曲の中でとくに好評なものってなんでしょう?

「“The Voyage Home”っていう曲は毎回やります。おもしろいのは、パレスチナのときはBPM120ぐらいのゆったりとしたダンス・ミュージックが受けて、逆に去年はBPM140ぐらいのアッパーなトランス曲が受けるとか、それぞれの地域や民族によって盛り上がるBPMが違うこと。ひとくちにダンス・ミュージックって言っても必要とされるビートはそれぞれ違うんだなあと実感しました」

──もう10年以上続けている難民支援の活動ですが、今年は新型コロナ・ウィルスの感染拡大のせいでままならないのが残念ですね。

「そう、この活動はずっと続けていきたいなと思っているし、本当は今年もクルド人自治区に行きたかったのですけど、もちろんそれは叶わずです。あそこで出会った何人かの難民の方々を個人的に支援していることもあって、ぜひ今年も会いたかったんですが……」

 

SUGIZO_03 コロナ禍の毎日について(10月19日配信)につづく

 

 

INFORMATION
2019年、中野サンプラザで開催した自身初のBirthday公演『SUGIZO 聖誕半世紀祭〜HALF CENTURY ANNIVERSARY FES.〜』を、 ソロキャリア初のライヴアルバム化。 ゲストに迎えた盟友達とのセッションを含め、 Day1&2のSGZ ライヴパートを二枚組で完全収録。

豪華版(数量限定発売)
CD2枚組、Blu-ray、特製ブックレット
発売:2020年9月30日(HMV&Loppi限定商品)
価格:8,470円(税込)

通常盤
CD2枚組
発売:2020年9月30日
価格:3,850円(税込)

 

PROFILE
作曲家、ギタリスト、ヴァイオリニスト、音楽プロデューサー。 日本を代表するロックバンドLUNA SEA、X JAPANのメンバーとして世界規模で活動。同時にソロアーティストとして独自のエレクトロニックミュージックを追求、さらに映画・舞台のサウンドトラックを数多く手がける。音楽と並行しながら平和活動、人権・難民支援活動、再生可能エネルギー・環境活動、被災地ボランティア活動を積極的に展開。アクティビストとして知られる。

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