香港の出来事は決して他人事ではない

1 新海洋同盟の結成

(1)はじめに

 軍事(防衛)戦略から作戦・戦闘に話は進んでいくのが通常の論旨の展開だが、我が国では、なかなか作戦・戦闘に勝つ教義(ドクトリン)や兵器(装備)そして編成に落ちてこない。

 そのため、例え立派な戦略を立てても、戦いに勝てる決定的な兵器(装備)を充実させようという防衛力整備には繋がらないし、なぜ防衛費を2~3倍にしなければならないかという議論も出てこない。

 一方、画期的な新兵器、すなわちゲームチェンジャーの開発が、作戦・戦闘の様相を一変させ、軍事(防衛)戦略に大きな変革をもたらす場合もある。

 そのように、戦いには、戦場の大小に関係なく、決定的な兵器が必要で、これが戦いに勝つ編成とドクトリンに繋がる。戦闘の勝ち目となる兵器が曖昧だと作戦・戦略は絵に描いた餅となる。

 例えば、中国の「DF-21D」のような安価なミサイルで、米空母を寄せ付けない非対称戦力による戦略を構築した中国は褒められるべきである。

 米軍に費用対効果の観点から空母は使えないと言わせたのだから大したものだ。

 第1次世界大戦時の戦闘機はまだまだひよっこであったが、第2次世界大戦の開戦当初、日本の爆撃機は英国の不沈戦艦を仕留め、航空機の時代を切り開いた。

 英国で誕生した戦車は、歩兵支援が主任務であったが、ドイツは戦車を敵の後方の重要な目標に対して、ユンカース爆撃機と組み合わせスピードを重視した「電撃戦」の主役にすることで新たな時代を切り開いた。

 過去の戦史を見ても、「新しい兵器」の出現や、装備はたとえ同じでも「運用を変える新たなチャレンジ」で時代を切り開いてきたのである。

 米国も2015年に第3次相殺戦略を提示した時には、無人のステルス爆撃機や水中の作戦などが決定的な兵器となることを明示して、戦略を語っている。

 もちろん、レーザ兵器、電磁波兵器などもゲームチェンジャーとして開発を急いでいた。

 しかしながら決定的な兵器は、その兵器が戦場で技術的奇襲を発揮するまで開示されることはない。そこが勝ち目なのだから簡単にオープンにはしない。

 日本では、あまりにも兵器で勝つということが疎かにされ、兵器(装備)への関心が低いため、政治家もマスコミも単に米国の高額装備を購入すれば戦に勝てると錯覚している。

 ここでは過去の戦史を紐解きながら、米中対決の新構図を明らかにした上で、中国という新興「海洋国家」を如何にして封じるか、そして、果たして中国は老舗海洋国家が得意とする戦場へ出向くのかを明らかにしたい。