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 ずっと気になっていることがある。私の父は70歳の時、がんで亡くなった。ある日突然、家族が病院に呼ばれ、医師から「あと一年、持たないでしょう」と宣告され、本当に10カ月後だった。何の前触れもなく、いきなり。父は屈強そうに見えて、コンビニにも一人で行けないほど、気の小さい繊細な人だった。私たちもそうだが、父はどんなにショックだったろう。本人には告げず、家族のみが別室に呼ばれ・・・。そんなエピソードはフィクションの世界だけだと思っていた。

 がんで死ぬ人はがんにではなく、恐怖に殺される――。

 中国ではそう言われているようだ。『フェアウェル』は優しい嘘をつき続けた素敵な家族の物語だ。

中国では本人に告知しないのが当たり前

 オープニングから「実際にあったウソに基づく」と記してあるように、これは監督が体験した実話がベースになっている話である。

 ニューヨークで暮らす中国系アメリカ人のビリーは両親から、長春に住む祖母が重い病気だと知らされる。病のことを知らない祖母に気づかれないで家族たちが集まれるよう、ビリーの従弟が急遽、結婚式をあげることになった。感情を素直に表現するアメリカ育ちらしいビリーは両親から中国行きを阻まれるが、それでも祖母が大好きなビリーは海を渡る。

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 祖母は肺がんでステージ4、余命3カ月だった。先ほどの言葉からもわかる通り、中国ではがんになっても、本人には告げないらしい。医師すら平気でウソに加担する。病人をこれ以上、苦しめてどうするのか。外見は中国人でも中身はアメリカ人のビリーは戸惑うばかり。もしこれがアメリカなら、家族が勝手に判断して、余命を知らせないのは違法にあたる。おばあちゃんにやりたいことがあるかもしれない。誰かお別れを言いたい人がいるかもしれない。けれど、大叔母をはじめ、中国に住む家族たちは「残り少ない人生を何も落ちこんで過ごさせる必要はない」とみんなで病気のことは本人には伝えないと決めていた。

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