中国・上海で開催された「ファーウェイ・コネクト 2020」の会場に掲げられたファーウェイのロゴ(2020年9月23日、写真:ロイター/アフロ)

(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)

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 米商務省による中国ファーウェイへ(華為:Huawei)の攻撃が、日増しにエスカレートしている。米商務省は2019年5月16日に、ファーウェイをエンティティーリスト(EL)に掲載し、その後、2020年5月14日および8月17日の2段階で、輸出規制を厳格化した。

 第1段階目の厳格化により、台湾のファンドリー(半導体受託製造工場)TSMCが9月15日以降、ファーウェイ向けの半導体出荷を停止した。そして、第2段回目の厳格化により、米国製の設計ソフトと製造装置を使って作られた、ほぼすべての半導体の出荷が、やはり、9月15日に停止された。

 具体的に列挙すると、サムスン電子やSKハイニックス(SK hynix)のDRAMとNAND、ソニーのCMOSセンサー、キオクシア(旧東芝メモリ)のNAND、ルネサスの通信基地局用半導体、台湾のファブレスMediaTekが汎用品(ASSP)として設計したプロセッサなどが出荷停止となった。

 上記の半導体メーカーの中で、もっとも甚大な被害を受けたのがキオクシアであろう。なぜなら、キオクシアのNANDの大半は、中国のスマートフォンメーカー向けに輸出されており、特にファーウェイは大口顧客だった。それゆえ、キオクシアは今年度の収益を下方修正することになり、その結果として、10月6日に予定していた東京証券取引所への上場を見送る羽目に陥ったからだ。

最大の被害者は中国SMIC

 そして、キオクシア以上に大きなダメージを被ることになったのが、中国のファンドリーSMICである。というのは、TSMCに見捨てられたファーウェイがSMICに生産委託をすることが明らかだったため、米商務省は、米国製の製造装置などをSMICに輸出する際には、事前に同省の許可を得ることと決めたからである(日経新聞9月28日)。

 これは、SMICが実質的に米総務省のELに載ったにも等しい措置と言える。現在、SMICは、アプライドマテリアルズ(AMAT)、Lam Research、KLAなどの米国製の製造装置が無ければ、先端の半導体を製造することはできない。そして、これら米国の製造装置メーカーが、SMICへの装置の輸出を申請しても、米商務省は、恐らく許可しないと思われるからだ。

 また、SMICは、半導体の自給率を向上させるための国家政策「中国製造2025」における中核的なロジック半導体のファンドリーとして位置付けられている。ところが、今回の米商務省によるSMICへの輸出規制により、「中国製造2025」の実現が極めて困難になったと言わざるを得ない。

 このような状況で、SMICは、どうやって先端の半導体を製造するのだろうか? また、「中国製造2025」の行方はどうなるのだろう? さらに、日本の製造装置メーカーや材料メーカーへは、どのような影響があるだろうか? 本稿では、これらの問題を論じる。

 その前に、SMICの微細加工技術や生産キャパシテイの現状について確認しておこう。