連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第19回。基礎研究が偏重されてきた歴史、ワンチームになれないセクショナリズム、研究費の少なさ、そして英語力。日本が臨床研究で遅れている理由を讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が斬る。

 新型コロナウイルスのワクチンについては第17回で取り上げましたが、「報道されるのは海外のワクチンばかり。国産はできないの?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。現在、ワクチン開発で先行しているのは欧米と中国で、日本政府が「確保した」としているのも、アストラゼネカ社(英)、ファイザー社(米)などのワクチンです。国産では、アンジェス社が大阪大学医学部付属病院で臨床試験(治療をともなう試験)に入り、来年春の実用化を目指すとしていますが、欧米からはやや遅れているというのが現状です。

 この背景には、日本の臨床医学研究(以下、臨床研究)が全般的に遅れているという現実があります。臨床研究は欧米がリードしてきましたが、論文発表数で今や中国に抜かれ、韓国にも追いつかれようとしています。なぜこうなったのでしょうか。

日本の医学研究は基礎研究が中心

 医学研究には、大きく「基礎医学研究」(以下、基礎研究)と「臨床研究」の2つがあります。基礎研究とは、遺伝子や免疫をはじめとする人体の構造・機能・メカニズムを明らかにしようとする研究です。実験室で実験を行って「なぜ」「どのように」を明らかにしたり、新たな発見をするイメージです。一方、臨床研究は、実際の医療の現場で人を対象とする研究で、病気の予防・診断・治療方法の改善や病気の原因の解明、患者の生活の質の向上を目的として行われます。実際の患者データを使って統計学的解析を行い、診療現場でどの治療が良いか検討するイメージです。