9月19日、スペインのラ・リーガ第二節で対戦したエイバルの乾貴士(中央左)とビジャレアルの久保建英(同右。写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 見慣れない光景だった。スペインの芝の上を、ふたりの日本人選手が走っている。

 リーガ第二節のビジャレアル対エイバル戦。スペインの舞台で初の日本人対決が実現した。エイバルの乾貴士が華麗なトラップを見せると、途中出場の久保建英もドリブルで相手を抜き去り好機を演出する。ライン際ではエイバルに加入したばかりの武藤嘉紀がアップをこなしていた。

 何十人もの日本人が欧州でプレーする時代だ。日本人同士が対戦するはもはや珍しいことではない。数年前のドイツでは毎週のようにどこかで日本人対決があったくらいだ。しかしスペインではやや事情が違う。過去に何人もがリーガに挑戦してきたものの長くは続かず、すれ違いは続いた。

 欧州の日本人選手の数が増え始めた2010年代前半、いつかスペインでも日本人同士が対戦する日が来るのだろうかと、ドイツの試合を見ながら思いにふけっていたものだ。

先駆者としての乾

 10年がたち、ようやくそんな時代がやってきた。

 ピッチで向かい合う乾と久保に見えたのは、全く異なるそれぞれの軌跡だ。

 2015年夏、スペインで日本人選手がまるで評価されていなかった頃にこの地に飛び込んだのが乾だった。

 今季で6年目。リーガに初めて定着した日本人選手だ。エイバル、ベティス、アラベスと3クラブでプレーし、現エイバル所属選手としてはFWセルジ・エンリッチに次ぐ2位の出場試合数を誇るチームの大ベテランでもある。

 彼にとって欧州最初の地はドイツで、ボーフムとフランクフルトで4年プレーしたが、その頃から視線ははるか南方を見ていた。

「昔からバルサが好きでした。リバウドやロナウジーニョのプレーを見て、いつかスペインでやりたいと思ってましたね」

 乾は年俸を下げてでもスペインを目指した。ようやく届いたオファー。エイバルというクラブなど聞いたこともなかったが、少しも迷わなかった。

 スペインで長くプレーするために必要なことは何なのかと聞いたことがある。答えは意外にも、技術の高さやパスの巧さではなく、「そのチームのサッカーに合わせられるかどうか」だった。