2020年9月22日、澎湖島の澎湖馬公軍事基地を訪問し、兵士たちの前でスピーチする台湾の蔡英文総統(写真:AP/アフロ)

 9月21日、中国人民解放軍で台湾方面を担当する東部戦区が、前代未聞の1分17秒のMV(ミュージック・ビデオ)を、「微博」(ウェイボー=中国版ミニブログ)にアップさせた。「もしも戦争が今日、爆発したなら」というタイトルの、勇ましい行進曲だ。

 中国のJASRAC(日本音楽著作権協会)のような機関の許可を取ったわけではないが、中国側も広めたくて公開したのだろうから、歌詞全文を訳して掲載する。

<♬磨かれた意志の鎧兜(よろいかぶと)、知恵に溢れた弾丸
  人はまだ出発せずとも、心はすでに到達している、気持ちは殺戮だ
  軍人の魂は最高点に引き上げられ、一切は対決するため
  もしも戦争が今日、爆発したなら
  毎日すべて全身装着、毎時すべて準備し発進を待つ
  我は生命をもって、承諾して使命に向かう
  もしも戦争が今日、爆発したなら
  これこそが私の回答だ
  毎日すべて全身装着、毎時すべて準備し発進を待つ
  我は生命をもって、承諾して使命に向かう
  もしも戦争が今日、爆発したなら
  これこそが私の回答だ、これこそが私の回答だ♬>

 この勇ましい歌詞の行進曲に合わせて、人民解放軍の台湾進攻を思わせる映像が展開されていくのだ。最後には、「祖国よ、我は死を誓い、あなたのために戦う」と黄文字で書かれたテロップが付いて終わる。

何度も超えた「看過できない一線」

 中台関係が、悪化の一途を辿っている。双方が「もはや看過できない一線を越えた」と相手を非難しているうちに、もうどこが「一線」だか、よく分からなくなってきた。

 9月17日から19日まで、アメリカ国務省のキース・クラック次官が、台湾を訪問。先月9日~12日のアレックス・アザー厚生長官に続くアメリカ政府高官の台湾訪問となった。

 アザー長官の訪台目的は、新型コロナウイルスに対する米台の連携強化と、7月30日に97歳で死去した李登輝元総統の追悼だった。今回のクラック国務次官の訪台目的もまた、19日に新北市で営まれた李登輝元総統の告別式への出席である。まさに「死せる李登輝がアメリカを走らせる」構図だ。