(英エコノミスト誌 2020年9月19日号)

数十年に及んだ公式な排斥が、数回のペンの動きで幕を下ろした。
9月15日に米ワシントンで開かれた式典で、バーレーンとアラブ首長国連邦(UAE)がイスラエルと正式な外交関係を樹立した。ペルシャ湾岸諸国では初めてのことだ。
署名された文書には厚みがなく、お互いを行き来する航空機、商取引、大使の交換などの詳細はこれから詰めなければならない。
それでも、イスラエルはこの日の午後だけで、公式的な関係を結ぶアラブ諸国の数を倍増させたことになる。非公式な関係であればオマーンからモロッコに至るまで、少なくとも5カ国と確立済みだ。
米国が謳う「歴史的な和平」の真価
のるかそるかの外交を試みては成功より手詰まりに至る方が多かったドナルド・トランプ大統領にとっては、今回は正真正銘の功績となった。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとっては、パレスチナと和平を結ばなくとも中東諸国との関係を改善できるという長年の見方の裏づけになった。
(もっと言えば、新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の感染者急増を受け、ユダヤ教の最も神聖な祝祭と重なる3週間のロックダウン=都市封鎖=を新たに導入したことで国民が怒り心頭に発しているイスラエルを離れる、格好の口実にもなった)
式典では平和について多くが語られた。まるで、長くて激しい戦争がついに終わったかのようだった。
「何十年にもわたって、砂漠中で血が流されてきた」とトランプ氏は述べた。「ひたすら戦い、殺し合うことしかしない」。
実際には、イスラエルはUAEともバーレーンとも戦火を交えたことが一度もなく、どちらの国もイスラエル建国後の二十数年間は主権国家ですらなかった。
3カ国は何年も前から内々に、イランに対する恐怖心によって結びつけられたパートナーの関係にあった。