金正恩委員長(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮では、「9」の数字は、特別に縁起がよいとされている。これは「九州」(中央+八方)に、あまねく統治者の徳が行き渡るという儒教の教えに基づくものだ。それで1948年の9月9日に、金日成(キム・イルソン)首相が、現在の朝鮮民主主義人民共和国を建国した。

 それから72年を経た栄えある建国記念日の9月9日、朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』がトップで伝えたのは、前日に孫の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、朝鮮労働党中央軍事委員会第7期第6回拡大会議を招集し、指導したというニュースだった。

 だがそこには、建国72周年の慶祝ムードなどなく、こんな書き出しで始まっていた。

<朝鮮労働党中央軍事委員会は、わが国の東海岸と北部内陸のいくつかの地域に甚大な影響を与えた台風9号によって、咸鏡南道(ハムギョンナムド)検徳(コムドク)地域で多くの被害が発生したことと関連し、9月8日午前、党中央委員会本部庁舎で、拡大会議を招集し、国家的な被害復旧対策を討論した>

官製メディアが「惨状」伝える異例報道

『労働新聞』の報道によれば、「敬愛する最高領導者同志(金正恩委員長)におかれましては、会議で深刻な被害を出した検徳地域の状況を、詳細に通報された」という。それは、以下のような内容である。

<初歩的に把握した資料によれば、検徳鉱業連合企業所と大興青年英雄鉱山、龍陽鉱山、白岩鉱山で、2000あまりの世帯の住宅と数十棟の公共建造物が被害に遭い、浸水した。45カ所で60㎞の道路が流出し、59カ所の橋が引き裂かれ、31カ所、3.5㎞あまりの区間の鉄道の路盤と、2カ所、1.13㎞あまりのレールが流出した。

 このように交通が完全に麻痺し、非常事態に直面。検徳鉱業連合企業所の沈殿池の堤防が破壊され、多くの設備が流出するなど、莫大な被害を受けた>

 北朝鮮の官製メディアが、台風9号によっても日本海側で大きな被害が出たことを認めたのである。北朝鮮では、吉事は針小棒大に、凶事はごく控え目にという「大本営発表」が定着しているので、実際の被害状況は、こんなものでは済まないだろう。

 というより、その前の8月の台風8号による被害も深刻だったと認めたばかりである。加えて、今週初めに朝鮮半島に上陸した、さらに大型の台風10号による被害も深刻だったはずだ。

今年8月27日、台風8号に襲われた時の平壌の様子。幹線道路沿いの街路樹がなぎ倒されている(写真:AP/アフロ)