(英フィナンシャル・タイムズ紙 2020年9月2日付)

「Buy my Abenomics!(アベノミクスは買いだ!)」。安倍晋三首相は2013年、こう呼びかけた。そして我々は買った。
「何々ノミクス」というブランディングの歴史的な勝利で、安倍氏は「大胆な金融政策と機動的な財政政策、成長戦略」の三本の矢が日本の経済を一変させることを世界に納得させた。
8年以上に及ぶ在任期間を経て辞任することになった今、審判を下す時だ。アベノミクスは成功したのか――。
シンプルな答えは「ノー」だ。
アベノミクスの中核的な目標は、2%のインフレターゲットだった。だが、新型コロナウイルスに襲われる前でさえ、日本のインフレ率はせいぜい1%程度にしか到達しなかった。これは失敗だ。
だが、リーグ戦で勝てなかったサッカーチームと同様、敗北は必ずしもダメだったことを意味しない。ただ、不十分だったということだ。
アベノミクスにも光った時はある。「日本化」――停滞へ向かう景気下降、デフレ、超低金利――と奮闘する世界にとって、アベノミクスには強力な教訓が詰まっている。
日銀のバズーカ、当初は奏功したが・・・
1つ目の教訓は、金融政策は奏功する、ということだ。
2013年に日銀が大量の資産購入に乗り出した当初の「バズーカ」は、極めて効果的だった。
債券利回りは低下し、株式市場は活況に沸き、何より重要なことに円相場が1ドル=100円を超す円安に振れ、日本の産業に恩恵を与えた。
融資も伸び、日本は安倍首相時代に記録的な就業率を謳歌した。金利が高く、円も強い方が日本は豊かになっていたと論じるのはほとんど不可能だ。