菅義偉官房長官(写真:ロイター/アフロ)

「えっ、日本で民主党の菅直人政権が復活するのか!?」

 週明けの月曜日、北京に住む中国人の友人が、WeChat(中国版LINE)で聞いてきた。そこで、こう返信した。

「菅直人ではなく、菅義偉。いま、安倍晋三政権で官房長官をしている人。あなたは『菅(かん)違い』をしている」

 実はこの話、かつて敏腕北京特派員として鳴らした大手新聞の記者が、私に教えてくれた体験談だ。

 だが、このエピソードは、図らずもいまの「中南海」(中国要人の職住地)の雰囲気を的確に伝えている。つまり中国では、「菅是誰?」(Who is Suga?)の状態なのだ。

 菅氏は、安倍晋三政権ナンバー2の官房長官として、7年8カ月にわたって君臨している。だが、記者会見を一日2回もやっているのに、例の訥々ボソボソした口調で、「常識の範囲内」のことしか言わない。中国の外交部報道官のように、毎日各国に対して吠えていれば、海外のテレビも放映してくれるというものだが、「戦狼(せんろう)報道官」とは対照的に地味な存在なのだ。

「無名」の政治家が主役に躍り出て来たことへの驚き

 とうわけで、中国人からすると「顔と名前が一致しない政治家」、というより「名前を聞いたこともない政治家」なのである。私は過去30年ほど、日中関係を注視しているが、これほど中国で無名の政治家が、日本の首相に就く可能性があるというのは、例を見ないことだ。

 それだけに、中国では連日、菅官房長官の動向や発言、それに付随した岸田文雄政調会長や石破茂元幹事長といったライバルたちの一挙手一投足が、ニュースになっている。

 中国で降って湧いたように、隣国の与党党首(自民党総裁)選挙の話題が盛り上がるのは、7年8カ月という歴代最長の安倍長期政権の後に来る政権という意味合いが大きいだろう。だがもう一つは、菅義偉という中国ではまったくもって「無名の政治家」が、「主役」を張っているからなのだ。まさに「菅是誰?」の状態だ。