昨年12月24日、中国・成都で首脳会談を行った安倍晋三首相と文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

「史上最悪」の日韓関係の最中、安倍晋三日本首相の辞任は韓国でも大きな話題になっている。

 日本の週刊誌「FLASH」で、安倍首相の健康悪化説が報道された直後から、韓国では安倍氏の健康問題がほぼ毎日、主要ニュースとして取り上げられた。

 28日午後5時からの安倍首相の辞任会見直後、韓国で真っ先に論評を出したのは、保守系野党の未来統合党だった。

「安倍首相の在任期間中、韓日関係はいつになく大変だった。新しく選出される首相は、韓日関係により前向きな姿勢で臨む閣僚であることを望む。歴史の痛みを認める懺悔や和解の土台の上に、両国間の協力と未来を図る新しい道が開かれることを希望する」

 その後、大統領府、外交部、共に民主党(与党)が順に論評を送ってきた。

「日本の憲政史上、最長寿首相として多くの意味ある成果を残し、特に長い間、韓日両国関係の発展のために多くの役割を果たしてきた安倍首相の突然の辞任発表を残念に思います。安倍首相の早い快癒を祈ります。韓国政府は、新しく選出される日本の首相及び新内閣とも、韓日間の友好協力関係の増進に向けて、引き続き協力していきます」(大統領府)

「韓国政府は安倍首相が突然辞任したことを残念に思い、安倍首相の早い快癒を祈っています。韓国政府は、新しく選出される日本の首相及び新内閣とも、韓日間の友好協力関係の増進のために引き続き協力していきます」(外交部)

「新しく建てられる日本政府と新しい歴史を作っていかなければなりません。韓日の連帯や協力は、東アジアの安保、経済、防疫など、国際関係において必要なことです。韓国と日本の交易と経済のためにも、両国間の対話とコミュニケーションが持続的に行われなければなりません。日本政府のより前向きで責任ある姿勢を期待します」(共に民主党)

 韓国政府と主要政党の似たような論評の中で、特に「上からの視線」が鮮明な未来統合党の論評が目を引いた。「保守=親日」というフレームに閉じ込められてしまった未来統合党だからこそ、最も迅速で最も強硬なメッセージを出したのだろう。

 一方、韓国メディアは保守系、進歩系に関係なく、「ポスト安倍」と今後の日韓関係について注目した。ただ、誰がポスト安倍に選ばれようと日韓関係が改善される余地があまりないという点に概ね同意している。

 進歩系とされる「ハンギョレ」は、「安倍首相の辞任が史上最悪とされる韓日関係の未来に影響を及ぼすだろうが、根本的な改善が実現するには相当な時間が必要だ」と分析した。

<安倍首相は28日午後5時から1時間にわたって記者会見を開きながらも、韓日関係に関しては特別な言及はなかった>

<日本の記者たちも、韓日関係について質問しなかった。安倍首相の突然の辞任や新型コロナ危機対応などで、韓国に対する政策的関心が相対的に低くなったことを裏付けている>

<現在、韓日葛藤の核心である強制動員被害者の賠償問題などに対する両国の立場が根本的に異なり、次期首相が妥協的な方向へ政策転換をするには相当な時間がかかるものとみられる>
(8月29日『安倍首相辞任会見1時間・・・韓日関係には言及も質問もなかった』)

 同じ進歩系の「京郷新聞」も似たような分析を出した。

<安倍首相の退場で韓日関係にどんな影響を与えるかが焦眉の関心事だ。しかし明らかなことは、安倍首相の辞任が日本の対外政策の変化につながることはないということだ。次期首相が誰になるかによって程度の差はあるかも知れないが、これまでの対外政策の基調は維持される可能性が高い。元徴用の損害賠償判決、元慰安婦問題など、韓日間の懸案に対する日本の立場の変化や関係の転換などは期待し難い>

<(韓国)政府関係者は「後任として名前が挙がっている人物のうち、菅義偉官房長官や岸田文雄自民党政調会長、河野太郎防衛相などが次期首相になれば韓日関係に変化はないだろう」とし、「石破茂元幹事長が首相になれば若干違うアプローチが出てくるだろうが、やはり根本的な変化があると見ることはできない」と指摘した。(8月29日『病気に倒れた「最長寿首相」、辞任発表の瞬間まで「改憲」に執着』)

 保守性向の「朝鮮日報」は、「外交の基調は変わらないとしても、対韓国輸出規制強化措置は緩和の余地もある」と分析した。

<外交関係者の間では「日本国内の世論は安倍首相の対韓国政策に同調する気流が強いだけに、安倍首相の辞任が韓日関係に有意義な影響を与えることは難しい」という観測が支配的だ。政権交代ではなく、自民党内部の人物交代であることから、慰安婦、徴用賠償、輸出規制など、韓日関係の足を引っ張っている主要問題に対する立場が維持される可能性が高いということだ>

<ただ、日本の輸出規制など安倍首相の「私感」が大きく作用したとされる政策は「ポスト安倍」内閣で一部緩和される余地がある。韓国政府がこれに答え、前向きな対日政策を駆使する場合、韓日関係が「全面的改善」まではいかなくても、最悪の局面から脱する可能性があるという分析だ>(8月29日『ポスト安倍、誰になっても韓日関係に劇的な変化はない模様』)

 やはり保守系の「東亜日報」は、3人のポスト安倍有力者を分析し、石破氏に日韓関係改善の期待をかけた。

<「ポスト安倍」候補のうち、韓国との関係改善に最も積極的な人物は石破茂元自民党幹事長だ。石橋氏は今年1月の同紙とのインタビューで「首相になれば韓国の歴史をもっと勉強したい」とし、「日本人自ら過去の責任を明確に検証しなければならない」と明らかにした。岸田文雄自民党政調会長も、韓国と縁があるハト派だ。岸田会長は2015年の韓日慰安婦の合意を結ぶ時日本外相だった。国民大学のイ・ウォンドク教授は「石破元幹事長や岸田政調会長などは安倍首相に比べて極右的イメージが薄い」とし、「韓国政府の選択の幅が大きくなるという点で関係改善のきっかけになる」と明らかにした>

<一方、菅義偉官房長官は、韓国に対して強硬な態度を示している。韓国の大法院による強制徴用賠償判決についても、「韓国が対策を持ってこい」と強硬な姿勢を崩していない。和田春樹・東京大名誉教授は最近、同紙とのインタビューで「韓日関係改善のために菅官房長官が次期首相になってはならない」と述べた>(8月29日『菅、強制徴用の強硬姿勢は安倍とそっくり。石破は韓国との関係改善に最も積極的』)

 ちなみに、コロナ禍の中、異常な株式ブームに熱中している韓国人たちは、安倍首相の辞任が日韓関係より株価に及ぼす影響に関心を持っている。

 安倍首相の辞任がうわさされると、韓国のインターネット上では「安倍辞任関連銘柄」というポートフォリオが構成された。28日辞任が伝えられた当日は、日本製の文具用品を代替するとされる文具メーカー・モナミは12.4%も高騰し、ユニクロの対抗会社として知られているアパレル社・シンソン通商も9.4%も高騰した。他にも素材・装備・部品会社の株が上昇している。

 いずれも日本製品不買運動のさなかに値上がりした銘柄だ。これまで「反日テーマ株」として人気を集めたこれらの銘柄が、安倍首相の辞任をきっかけに、今回は「安倍辞任テーマ株」として再び人気を集めているというわけだ。韓国国民もはやり、「日韓関係改善は難しい」と睨んでいるに違いない。