(福島 香織:ジャーナリスト)

 習近平が李克強から経済政策の主導権を奪い返しに動いているようだ。8月24日に14次五カ年計画(2021~2025年の中期経済政策)に関する経済・社会学者たちとの座談会が北京で開催されたのだが、国務院による開催ではなく、習近平が個人的に召集した座談会であり、本来経済を主管するはずの首相の李克強は参加していなかった。

 中国では習近平政権以前は、首相が経済政策を全面的に主導し、外交などを主に担う国家主席と役割が分担されていた。だが、習近平は経済、外交、軍事、思想・宣伝、庶民の生活ルールに至るまですべてを自分が主導で行おうとして、集団指導体制から独裁への転換をもくろんでいた。

 ところが、これまでのところ外交政策も経済政策もおよそ失敗している。習近平体制が行き詰まりつつある一方で、昨年(2019年)あたりから李克強が経済政策の面で存在感を強め始めていた。一部のチャイナウォッチャーの中には、李克強を、毛沢東の大躍進政策で悪化した経済を立て直した劉少奇にたとえる見方もあった。

 だが、ここにきて、習近平は再度、経済の主導権を李克強から奪おうとしているのではないだろうか。

 ちなみに、2人の経済政策の方向性がかみ合っていないことは、さまざまな局面で明らかだ。たとえば武漢肺炎(新型コロナウイルス感染症)の影響で中国経済の落ち込みが激しくなって以降、李克強は個人経営の中小を含む民営経済の活性化を打ち出しているが、習近平におもねる地方政府がこれに反対を表明したり、李克強が失業者の増加に対応して「臨時工」就業に関する指示を国務院常務委員会議で出しても、中央紙がすべて無視したりしていることからもうかがえる。また、李克強が民営経済重視を訴えるのに反抗するように、習近平が「公有経済主体の体制を揺るがさない」と強調し、民営企業いじめともいえるような、「財務リスク」を建前とした資産接収などを行ったりもしている。