写真:PantherMedia/イメージマート

 新しい金融サービスを始めるときに大きな課題となることが多いのが、決済システムの利用料金だ。公正取引委員会(公取委)が2020年4月に公表した報告書*1をきっかけに、CAFIS*2や全銀システム*3などの決済インフラで、利用料引き下げの動きが出始めた。この動きは金融業界、とくにフィンテック業界にどのような影響をもたらすか。Fintech協会理事であるマネーフォワードの神田潤一執行役員に聞いた。

――CAFISや全銀システムの利用料金引き下げに向けた動きが、今春から話題になっています。

 公取委が2020年4月にまとめた報告書のインパクトが、かなり強かったのでしょう。固定的な手数料の見直しや取引コストの透明性確保を求めるなど、長年続いてきた金融界の取引慣習に深く踏み込んだレポートの内容は、金融業界にとってショッキングだったと思います。

 たとえば全銀システムの手数料に関して、公取委はレポートで、現在のインフラでどこまで料金を下げられるかを明らかにする必要性を指摘しています。これは今年から来年にかけての短期的なテーマです。

 また公取委はITベンダーと銀行との間の関係が固定化し、競争原理が働いていないことが、決済インフラのコストを高止まりさせる要因のひとつになっているのではないかという懸念を示しています。この点は3年や5年など中長期的にITベンダーと銀行との関係を見直しつつ、インフラのコストを抜本的に下げていく取り組みになるでしょう。

一般社団法人Fintech協会理事を務めるマネーフォワードの神田潤一(かんだ・じゅんいち)執行役員(オンライン会議によるインタビュー画面より)。東京大学経済学部を卒業し、米イェール大学より修士号を取得。1994年日本銀行に入行し、金融機構局で金融機関のモニタリング・考査などを担当する。金融庁への出向期間は、日本の決済制度・インフラの高度化やフィンテックに関連する調査・政策企画に従事。2017年9月から現職。

*1 公正取引委員会は2020年4月に公表した「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」で、クレジットカードやJ-Debitなどの決済インフラCAFISの利用料金が長年改訂されていないことを課題として指摘した。また、全銀ネットについては銀行間手数料の見直しなどについても言及した。

*2 CAFIS(キャフィス)はNTTデータが提供する決済インフラで、1984年にクレジットカードの加盟店とクレジットカード会社を接続するネットワークとしてスタートした。現在はキャッシング、コンビニATM、J-Debitなどさまざまなサービスが利用しており、キャッシュレス決済を行うときにCAFIS以外の選択肢がほとんどない状況になっている。公取委の報告書を受け、NTTデータは6月にCAFISの料金見直し(10月からの値下げ)を発表した。キャッシュレス決済のチャージに利用されるCAFISの即時口座振替取引の料金は、処理1件あたり最大3.15円から1円に引き下げる。クレジットカード決済の料金は、処理1件あたり最大3.15円(決済金額にかかわらず同額)だったものが、1000円以下の少額決済は決済金額の0.3%という方式に変更する。

*3 全国銀行データ通信システム(全銀システム)は、全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営する銀行間の資金決済ネットワーク(NTTデータが開発保守を受託)で、異なる銀行間の口座振込などに利用されている。銀行間手数料は、個人や法人が振込を行う際の手数料に反映されている。2020年5月には、公取委の報告書を受け、「次世代資金決済システムに関する検討タスクフォース」を設置した。