(英エコノミスト誌 2020年8月22日号)

ウイルスは人間に脅威であると同時に人間の進化にとっても欠かせない存在だった

ウイルスはパンデミックを引き起こすだけではない。

 人類は、自分はこの世界の頂点に君臨する捕食者だと思っている。

 サーベルタイガーの沈黙も、ニュージーランドのモアの絶滅も、絶滅が危惧される大型動物のリストが長く伸びていることも、すべてがその証左だと考えている。

 しかし、新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」の登場が浮き彫りにしているのは、人類もまた餌食になる恐れがあるということだ。

 ウイルスは新型コロナウイルス感染症「COVID-19」からHIV・エイズ、第1次世界大戦の死者を大きく上回る犠牲者を出した1918~20年のインフルエンザ大流行に至るまで、現代のパンデミックを繰り返し引き起こしてきた。

 それ以前にも、ヨーロッパ人による北米・南米大陸の植民地化が様々な伝染病によって促進された(ひょっとしたら「可能になった」)歴史がある。

 天然痘や麻疹、インフルエンザなど、侵略者が知らず知らずのうちに持ち込んだ疫病が、現地の人々を数多く死に至らしめたからだ。

 しかし、地球上の生命にウイルスが及ぼしている影響は、人類という一つの種の過去と現在における悲劇をはるかに超える。

 そもそもウイルスの研究は、病原体の不思議な仲間に見えるものの正体を突き止めようと始められたものだったが、最近では遺伝子――利己的なものと、そうでないものの両方――が取る戦略の説明の中核にウイルスが位置づけられるようになっている。

 ウイルスは想像を絶するほど多様で、至る所に存在する。

 そして生命というものが始まった時からずっと、すべての生き物の進化を実に大きな影響を及ぼしてきたことが明らかになりつつある。