(英フィナンシャル・タイムズ紙 2020年8月14日付)

大爆発によって跡形もなくなったベイルートの港(8月17日撮影、写真:ロイター/アフロ)

 レバノンの首都ベイルートの港を壊滅させた8月4日のすさまじい爆発の後、この国の内閣は倒れた。

 普通の国であれば、内閣の交代は新たなスタートを切るのに必要な序曲だと見なされるかもしれない。

 これはそんな類いのものではない。

 筆者はこの災難の後に、この打ちひしがれた国の繊細な感覚の人々から話を聞いているが、これで新しい時代が始まるかもしれないなどと惑わされている人にはまだ一人も出会えていない。

 レバノンに無数に存在するキリスト教やイスラム教の宗派を率いる、世襲のエリート層による支配は揺らいでいない。

 彼らは1975~90年の内戦を生き延びた軍閥で、国家の収奪を得意としているオリガルヒ(新興財閥)と30年にわたって結託してきた。

 今回倒れた内閣も、これらの勢力が黒幕になって昨年10月に選んだメンバーで構成されていた。

 前の内閣――利権の共有に基づく連立政権だった――が、政治階層全体に対する一般市民の反乱によって倒された後のことだった。

「時限爆弾」を6年も放置

 ベイルートは8月4日、ほぼ文字通りの大混乱に陥った。

 当局の発表によれば、港の倉庫に保管されていた硝酸アンモニウム2750トンが大爆発を起こしたためで、繁華街からウォーターフロント、そしてベイルートの東部から中部にかけての広い範囲が破壊された。

 死者は170人前後(多くの人の行方がまだ分かっていない)に達し、負傷者は6000人。30万人が住む家を失った。

 肥料や爆薬の原料として使われる硝酸アンモニウムは、この港で6年にわたって保管されており、まさに時限爆弾のようだった。