(英エコノミスト誌 2020年7月25日号)

ポートランド市民の抗議活動に対して完全武装して鎮圧にあたる連邦政府の治安維持部隊(7月24日、写真:ロイター/アフロ)

ますます強まる権威主義的なやり方は、強さではなく弱さのしるしだ。

 歴史家のカール・アボット氏は、地図上の境界線が米国の芸術・文化において果たした役割について論じた著書『Imagined Frontiers(想像上のフロンティア)』で、「(境界線は)差異を示すがゆえに、電位を均衡させるスパーク(火花)のような変化が起こりうる最先端の場所でもある」と指摘した。

 これこそ、ドナルド・トランプ大統領の政治的洞察の中心にある考え方だ。

 南の国境沿いに壁を建設するという大統領の公約は、最初からずっと、出入国管理を強化することよりも大統領とその支持者が対抗する相手を浮き彫りにすること――そして火花を飛ばすこと――に重きが置かれていた。

 敵対する相手とは、表向きは「レイピスト」の移住者だったが、暗示的には多様性であり、多様性に寛大な共和党の指導者、多様性を歓迎するリベラル派だった。

 トランプ氏が公約した壁のレンガを1つも積んでいないのに(ただし既存の国境の壁は延長している)、大統領のファンのほとんどが気にしていないように見えるのは、そのためだ。

 2018年の中間選挙に備えて、トランプ氏は同じ政治的フロンティアを再び想像して作り上げた。この時は、中米諸国から亡命希望者が列をなしてやってきていることをフロンティアの象徴にした。

 そして今日、世論調査で対抗馬のジョー・バイデン氏に大きく水をあけられ、再び火花を飛ばす必要に迫られたトランプ氏は、フロンティアをさらに大胆に設定し直した。

 移民を取り締まる要員(南の国境でメキシコのギャングと銃撃戦を繰り広げる訓練を施された部隊)をアボット氏の故郷であるオレゴン州ポートランドに送り込み、人種差別抗議行動の鎮圧にあたらせることで、人々を分断する境界線をサンディエゴの1100マイル北にある都市まで移動させた。

 これで、従来ほのめかすにとどまってきたことが白日の下にさらされた。つまり、トランプ氏やその支持者の敵は、すでに国内にいるということだ。

 分断をあおるトランプ氏のやり口は、これで頂点を極めた。