陸上自衛隊・令和2年度富士総合火力演習(陸上自衛隊のサイトより)

 新型コロナウイルス対処ほど自由民主主義国家・日本のジレンマを浮き彫りにしたものはない。

 国民の生死が懸かっているというのに、政府が強制力を発揮できず、すべてが「要請」や「協力」を依頼する外はなかった。

 本来は憲法に非常時対処条項があって、国家の存続が危惧され国民の生命が危険にさらされるような場合は、個人の自由が制限され民主的手法も凍結されるのが一般的である。

 しかし日本では憲法の欠陥(草案を創った米国の意図)から、国家よりも個人に重きが置かれている。

 今回は国民一人ひとりが「自分の命(の危険)」に直面したために要請などでもことが進んだが、非常事態下の国家の対応という視点で政治が機能しなかったことは明瞭である。

自由民主主義国家も強制隔離で罰金まで科した

 これは日本だけに特異なことで、米英独仏伊、スペイン、シンガポール、韓国、その他多くの自由民主主義を信条とする国家でも、堂々と隔離・禁足を強制し、罰金まで科した国もある。

 オーストラリアでは武漢からの帰国者を離島のクリスマス島に隔離し、2週間の禁足を命じ、違反者には80万円の罰金を科した。

 担当大臣はこうした施策が「公衆のためになり、また本人が早く自宅に帰れるようにもなる」と断固として語っている。フランスなども政府や地方自治体などの指示に従わない者には罰金を科している。

 中国はいち早く都市封鎖して感染症対処に成功したとしているが、成功しているのは言論封鎖だ。

 4月時点で、医療・衛生環境がはるかに優れた台湾やシンガポールなどの完治率は約2割(その後向上)に対し、中国の9割(中国系メディア報道)はプロパガンダでしかない。

 ちなみにここ数か月間の日本の治癒率(退院者/感染者)は60~75%台で推移している。

 自由主義諸国のコロナウィルス感染封鎖も成功していないが、非常時には「強制」できる法体系が構築されていることは明確になった。

 対して日本は、加藤勝信厚生労働相が「人権との兼ね合いで隔離するスキームにはなっておりません」と言ったように、強制隔離はできず、当初は自己判断に委ね、「症状を示す感染者は病院へ、そうでない人は自宅へお引き取りいただく」以外になく、保菌者が野放し状態であった。

 野党(日本維新の会を除く、以下同)が独裁者ででもあるかのように批判する安倍晋三首相にしても、感染の有無を調べる〝「検査」を拒否する者″に対しては「法的拘束力がないため、強制できない」と言わざるを得なかったのだ。

 知識人や野党は他方で首相のリーダーシップの欠如を批判してやまないが、安保法制をはじめ非常時対応に最も熱心なのは安倍内閣で、野党は悉く妨害・阻止してきたのではないか。

 短い期間ながらも政権を担当し、その間に東日本大震災という未曽有の経験もした多くの現野党議員たちは、非常時対応の法制、特に包括・恒久的な緊急事態法の欠落を知っているはずだ。

 何かあれば、日本は〝特措法″の制定や法律の「改正」で済ましてきたが、想定外に迅速に対応できる緊急事態法がないことをこそ野党は教訓として提案しなければならない。

 というのも、政府・与党が提案しようにも、野党は国益意識がなく党利党略で拒否することが明らかであるからだ。