(英エコノミスト誌 2020年7月18日号)

欧州の小国ながら強い外交力を有するアイルランド

 アイルランドの閣僚は毎年3月17日の聖パトリック祭がめぐってくる頃、昔からの慣習に従って外遊に出る。母国の良さを説いて回るために、遠く離れた異国の地に送り出されるのだ。

 首相は常に米国に向かうが、ほかの実力者はもっと遠くに出かけていく。2018年には当時の住宅相が韓国に派遣され、高等教育相はオマーンを訪れた。

 今年は新型コロナウイルス感染症「COVID-19」が欧州全土を襲っており、アイルランドの政治自体も組閣交渉のために空白が生じていたことから、外遊の規模が縮小された。

 実行されたのは首相の米国訪問だけで、人口500万人のアイルランドは大統領との会談、副大統領との朝食会、そして事実上すべての大物連邦議会議員との昼食会をもって良しとしなければならなかった。

 人口1人当たりで考えるなら、アイルランドは世界最高の外交力を持つ国だと言えそうだ。

 パスカル・ドナフー財務相は先日、ドイツとフランスの政府が推していた候補者との争いを制し、影響力のあるユーロ圏財務相会合(ユーログループ)の次期議長の座を勝ち取った。

 6月には、アイルランドが国連安全保障理事会の非常任理事国に選出された。大きく、時に粗野な隣国との比較で実力以上に良く見えることの多いカナダを退けての勝利だった。

 さらに、世界金融危機でアイルランドが救済されてからまだ10年ほどしか経っていないのに、アイルランド中央銀行総裁だったフィリップ・レーン氏は欧州中央銀行(ECB)のチーフエコノミストになっている。

 ブリュッセルの欧州連合(EU)本部では、アイルランドのフィル・ホーガン欧州委員が通商問題を担当している。通商問題と言えば、EU加盟国政府ではなく欧州委員会が最高の権限を有している数少ない分野の一つだ。

 そして、ブレグジット(英国のEU離脱)においてEUの立場を形作ったのは、ほかならぬアイルランドの外交官たちだった。