7月20日、ロシア海軍の艦艇の起工式に出席するため、クリミアのケルチにあるザリフ造船所を訪れ、労働者と話し込むプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

(亀山 陽司:著述家、元外交官)

 7月1日、ロシアで国民投票が実施され、賛成多数で憲法が改正された。ソ連崩壊後の1993年、エリツィン大統領時代に国民投票によって制定されたものに大幅な修正が加えられたことになる。

 今回の修正の目玉は、何と言っても大統領再選の道を開いたこと。プーチン大統領はすでに4期目に入っており、2024年で大統領任期が切れるはずだったが、今回の憲法改正により、2036年まで、あと2回の大統領任期が許されることになった。その後は終身上院議員となれ、不可侵が認められる。

 この点にばかり注目が集まっているが、筆者の見るところ、今回の憲法改正の要諦は、プーチン大統領の任期延長ではなく、ソ連崩壊後に形作られてきた新生ロシアの新たな形、新たな国家像を示したという点にある。通常、憲法とは国家権力と国民との権利義務関係を定めるものとされるが、プーチン憲法はそれにとどまらず、ロシアの国家像が示されるものとなっていると言える。神への信仰や国防戦争の歴史が言及されているのはプーチンの面目躍如といったところだ。プーチン大統領の任期延長は付随的なものに過ぎない。

多くの国民も受け入れたプーチンが提示したロシア像

 そもそも、プーチン大統領が出馬するかどうかも現時点では不明なのである。6月21日には国営テレビ「ロシア1」のインタビューで、プーチン大統領は2024年の次の大統領選挙での出馬の可能性を否定しない、と述べているが、これをプーチンの出馬表明と早合点してはならない。彼は同時に「もし、憲法改正がなければ、2年後には、政権内で後継者候補を探し始めるだろう」との趣旨の発言をしている。

 これには、出馬の可能性を示唆することで、自らの残りの任期がレームダック化しないようにするとのプーチン大統領の戦略が明確に示されている。もちろん再出馬も否定できないが、それは情勢次第ということだろう。それよりも現政権を効率的に維持していくことの方が重要ということである。

 1991年にソ連が突然消滅して、民主的な国家として生まれ変わったロシアがエリツィン大統領の下で定めたのが上述の1993年憲法であるが、2000年に大統領に就任して以来約20年間続いているプーチン支配を経てロシアも大きく変わった。これを踏まえて大幅に修正された新憲法は、どのような国家を目指しているのか。国民投票結果が78%もの賛成率であったというが、この結果をある程度割り引いてみたとしても、国民がプーチンの提示するロシア像を受け入れたと言える。