(英エコノミスト誌 2020年7月11日号)

米ワシントンD.C.にあるマーティン・ルーサー・キング牧師の記念碑

人種をめぐる新しいイデオロギーの問題とは何か。

 米国の人種差別の問題は2つの部分に分けることができる。

 一つは、奴隷制度が終わって1世紀半も経つのにアフリカ系米国人の人生をいまだに妨げている、無数の不公平がすべて含まれている部分。

 もう一つは、右派の一部が人種間の分断を政治の道具にするやり口だ。

 前者の例は今年5月25日、ミネアポリスのうらぶれた街角でジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害された時に見られた。

 後者の例は7月3日、米国で最も偉大な4人の大統領の顔が彫られたラシュモア山を背にしたドナルド・トランプ大統領が、自分が再選される可能性を高めるために、人種を主戦場とする文化戦争に火をつけようとした時に見受けられた。

 人種についての公正さを目指す運動を成功させるには、この両方に対処しなければならない。

 19世紀のフレデリック・ダグラスや20世紀のマーティン・ルーサー・キングといった指導者たちは、機会の平等と法の下での平等という自分たちのビジョンに社会を近づけるために、精力的な抵抗運動と間断のない議論という手法を用いた。

 ほとんどの米国人は、フロイドさんの殺害に至極もっともな怒りを表明するデモ行進の参加者の多くと同様に、この古典的なリベラルの理想を今でも信奉している。

学術の世界、一般社会へと広まる思想

 しかし今、それに対抗する危険なアプローチが米国の大学で姿を現している。

 進歩というリベラリズム(自由主義)の概念を拒み、あらゆる人を人種で区別し、あらゆる行動を人種差別的か反人種差別的かで分別するアプローチだ。

 このアプローチはまだ支配的ではないがダイナミックで、学術の世界から一般社会へと広がりつつある。

 もしこれがリベラルな価値観に取って代わることになれば、開かれた議論が威嚇によって水を差され、黒人も白人も含むすべての人種が不利益を被る分断の種がまかれることになるだろう。