火星の内部を調べる方法は、ひとつとは限らない。 Image by NASA/JPL-Caltech.

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 さる2020年5月13日、東京大学の西田圭佑助教(現・バイロイト大学研究員)らのグループが、高圧・高温における鉄-硫黄合金の音速を測定したことを発表しました。これまでの世界記録の8万気圧を大幅に上回る、20万気圧での測定です。

 一方そのころ火星では、探査機インサイトが赤い大地に穴を掘りながら、火星地震が来るのを待っていました。

 距離も手法も文字通りかけ離れたこのふたつの実験は、実は同じ研究テーマに取り組んでいます。両方とも、火星の内部構造を知ろうという試みなのです。

インサイトは今日も元気で火星にいる

探査機インサイトのイメージイラスト。探査機左下の半球が「SEIS」、右下の地中に刺さっているのは「HP3」。探査機の台上にあるラッパのような物体が「RISE」アンテナ。 Image by NASA/JPL-Caltech.
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 地震計測・測地・熱流量測定地中探査機インサイト(InSight)は、火星の地震活動と隕石活動を観測し、コアと地殻とマントルの構造を明らかにする探査機です。NASAによって2018年5月5日(協定世界時、以下同じ)に打ち上げられ、2018年11月26日19時52分に火星の赤道近くのエリシウム平原に着陸し、それ以来そこで計測を行なっています。

 インサイトは3台の観測装置を持っています。地震計「サイス(SEIS)」、地面に穴を掘る「HP3」、電波を送信する「ライズ(RISE)」です。