(山田 敏弘:国際ジャーナリスト)

 中国でスパイ罪により有罪判決を受け服役していた日本人男性が7月1日に刑期満了となり、7月2日に日本に帰国した、とのニュースがもたらされた。

 彼は、公安調査庁の協力者だった。だが、公安調査庁にとって帰国した彼をどう遇すればよいのか、極めて悩ましい問題になっているようだ。

 彼の帰国についてネット上には「中国に洗脳された」「中国のスパイになって帰国した」などといったコメントが数多く投稿されているが、相手が中国だけに、そう受け取ってしまう人がいるのも無理からぬことなのだろう。逆に言えば、それだけ彼がこの5年間、過酷な拘束・服役生活を強いられてきたということだ。

 国内の情報関係者に当たってみると、実はこの事案は、日本の情報当局の中国におけるインテリジェンス(諜報活動)に大変な打撃を与えたという。そこで、ここまで筆者がキャッチしている情報などを含め、今回の釈放と日本の情報当局が直面している問題について見ていきたい。

「中国にバレた以上、接触すら難しい」

 今回、帰国したのは、神奈川県出身の男性(59)。2015年に、北朝鮮との国境に近い中国東北部・遼寧省丹東で中国当局に拘束され、2018年7月に丹東市中級人民法院にてスパイ罪で有罪になり、懲役5年の判決が下されていた。そして、ついに今年7月1日、刑期満了となり、帰国する運びとなった。

 中国でスパイ罪の服役を終え、日本人が帰国するのはこれが初めてのケースになる。それだけに日本の情報当局にとって男性の扱いは難しいようだ。

 国内の情報機関関係者が言う。

「すべて洗いざらい中国当局に話したはずで、逆に中国側のスパイになっている可能性もあるので、もう情報源としては使えない。実際のところ、中国にバレた以上は接触すら難しい」