(英エコノミスト誌 2020年6月27日号)

ワイヤーカードの創業者、マークス・ブラウン氏(2018年9月6日撮影、写真:ロイター/アフロ)

 米国のハイテク企業の興隆がうらやましくて仕方がなかったドイツ人は、フィンテック企業ワイヤーカードが2018年に株価指数のDAXに組み入れられ、時価総額も急増して240億ユーロ(約280億ドル)を突破した際に感激し、誇らしさのあまり頬を紅潮させた。

 欧州のフィンテク企業の盟主が、世界市場での栄冠を目指すデジタル決済企業が、ついに登場したかに思われたからだ。

 そして今、再び顔が赤くなっている。今度は困惑から来る紅潮だ。

 ワイヤーカードは、財務に19億ユーロもの穴が開いていることを認めた。ビジョナリー(先見の明の持ち主)と称えられていた創業者のマークス・ブラウン最高経営責任者(CEO)は6月19日に辞任。

 その後、不正会計と市場操作の容疑で逮捕され、保釈された。同社は今、破産か身売りかの瀬戸際に立たされている(編集部注:この記事が出た後に、ワイヤーカードは破産申請した)。

 ワイヤーカードの興隆と転落は、会計が狂ってしまったが、国の規制当局も大手の投資家もその企業の物語にすっかり魅せられてしまったために異変に気づかないか直視しない時に起こりうる大惨事のケーススタディーだ。

 また、市場はどのような過程を経て空売り筋――値下がりすると読んだ上場株式を借り受けて売却し、安くなったところで買い戻すことによって利益を出そうとする市場参加者のこと――から恩恵を得るのかを思い出させてくれる事例でもある。

誰も耳を貸さなかったカサンドラの警告

 何年も前にワイヤーカードの周囲の悪臭に気づいたカサンドラの警告に誰かが耳を貸していたら、数十億ユーロの損失発生(その多くは年金基金の投資家が負担する)は回避できたはずだ。

 同社の会計処理については、2015年から疑問が浮かび始めていた。

 過去18カ月間には、空売り筋や内部告発者からの情報をもとに英フィナンシャル・タイムズ紙が何本も記事を書き、疑惑がさらに深まった。

 ところが、ドイツ市場を規制している連邦金融監督庁(BaFin)はこうした報道を真剣に受け止めなかった。