2018年9月、北朝鮮で開かれた南北首脳会談の一コマ。白頭山の麓にあるゲストハウスで、文在寅大統領と金正恩委員長が昼食をともにした。この時はこんなにも親密そうだったが・・・(写真:代表撮影/Pyeongyang Press Corps/Lee Jae-Won/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

「遠い国の紛争解決はわれわれの義務ではない」

 これは6月13日、米国のトランプ大統領は米陸軍士官学校の卒業式で述べた言葉だ。北朝鮮の韓国に対する挑発が続く中で出たこの発言は、北朝鮮にとってみれば、韓国をさらに脅迫して、文在寅大統領のせいで米朝首脳会談が決裂したことへの責任を取らせ、南北関係で韓国の一層の譲歩を引き出す格好の機会が到来した、と映ったであろう。

 そして北朝鮮は実行に踏み切った。6月16日午後、開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を爆破し、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が国内外に誇ってきた“業績”を木っ端みじんにして見せた。

直前まで北朝鮮に追随し続けていた韓国

 北朝鮮は、6月4日に金与正(キム・ヨジョン)党第一部長が韓国からのビラ散布を非難する最初の談話を発表して以来、南北間のあらゆる通信ラインを遮断するなど、次第に挑発の水位を上げてきた。ビラの散布はあくまでも口実であり、真の狙いは文在寅大統領を揺さぶることにあった。北朝鮮は、南北関係を破壊させ、朝鮮半島の緊張局面を作り出そうという戦略的な意図を持っているのだ。

 しかしこの間、北朝鮮の一連の挑発に対し、韓国政府は、ビラの散布を禁止する法律の策定を進めているほか、南北首脳会談の合意は順守するべきであるとの原則的立場を繰り返すのみだった。北朝鮮への対応について米国との協議もなければ、北朝鮮の軍の行動に対する警告や、韓国を脅迫することへの糾弾などの明白なメッセージの発出も控え、ひたすら北朝鮮に追従する姿勢を強めていた。

 その上、韓国の与党「共に民主党」からは、「(米国で警察官に首を押さえつけられ死亡した)ジョージ・フロイド氏は息ができないと言った。それと同じような状況ではないかと思う」と述べ、北朝鮮に対する経済制裁をあくまでも続けるとする「米国のせいだ」との論陣を張った。

 しかし、北朝鮮に対する経済制裁は国際社会の総意に基づくものであり、北朝鮮が核ミサイル開発を停止するまで続けるべきものである。

 この北朝鮮に対する徹底的な弱腰ぶりが文在寅政権の体質(拙書『文在寅の謀略―すべて見抜いた』参照)だと言ってしまえばそれまでであるが、北朝鮮の挑発を抑えるために今最も重要なことは、北朝鮮が軍事行動をできないようにすることである。それには米韓同盟を再度強化していく以外ない。