(岡村 進:経営コンサルタント、人財アジア代表取締役)

 オンラインでは人の感情が伝わらない、在宅勤務では仕事の質を維持できない・・・とできない理由ばかりが先行し、長らく日本では働き方を効率化するためのシステム化投資が停滞してきた。

 コロナショックにより多くの企業で強制的に在宅勤務が導入された結果、好むと好まざるとにかかわらず、今後デジタライゼーションによる働き方改革が注目されていくことだろう。

 いままでブレーキ役が多かった年配の会社経営陣や有識者がオンラインによる会議等を経験し、「テレワークはやればできる!」と自信を持ったのは大きい。実際ここ2~3カ月、リアルにお目にかかるのでなければ無礼になってしまうようなエグゼクティブと、オンラインによる個別面会や勉強会を行うことができた。もともと仕事ができる方々だから、如才なくシステムを使いこなす様子を拝見し、必要は発明の母とはよくいったものだと感じた。

テレワークの明暗

 一方で、この流れが定着するかどうかは予断を許さない。外圧による変化は常に迷走しがちだ。既にあちこちで後戻りが危惧される会話を耳にする。

 あるメーカーの営業担当と話していたら、上司から「毎日暇だろう」といわれてめちゃくちゃテンションがさがっていると愚痴をこぼされた。「確かに顧客訪問はできないものの、こういう時期だからこそ利益を度外視して社会に貢献できることがないか考えていたところなのに・・・」との思いを聞いて感激した。この理念回帰の姿勢が、長期的にビジネスに繋がっていくと経験則上知っているだけに、在宅=さぼりと決めつけてしまう上司の発想の乏しさを残念に感じた。

 物流会社の内勤社員は、「パソコンの支給をずっと待っているが、なかなか順番が回ってこない。やる気はあるのに、在宅で仕事らしいことができない日々に不安がいっぱい」と本音を吐露してくれた。在宅勤務でコロナリスクを避ける安心感と引き換えに、職を失う恐怖心を高めているのは世代を超えて共通している。

 こんな理不尽な状況にあって会社から、「緊急宣言も緩和されたし、とにかくオフィスにきて話さないか」といわれたら、思わずほっとして、せっかく進み始めたテレワークも元に戻ってしまうのではないか。

 そもそも日本はシステム化後進国に成り下がっており、“意味のある”テレワークの実現のために踏むべきステップが多いのも不安の材料だ。

 全社員にパソコン貸与するには金がかかる。しかも数年に一度入れ替えすることまで考えたら経済的に投資可能な企業がどれだけあるか。

 仮にハードは整えたとしても、在宅で業務の質を維持するためには社内ネットワークへのアクセスを構築しなければならない。当然セキュリティの確立が急務となるが、社内に専門家を擁する企業はどれだけあるか?

 社内外問わず専門的助言を仰げたとしても、その本質を理解し、割り切りの判断をできるほど経営陣がITリテラシーを有しているか大いに疑問がある。

 大企業であれば、巨大データの移動を可能とする回線の容量確保も必要だ。

 それでもこうした技術的課題はいつかクリアーできるであろう。

 私が日本企業に最も難題と考えるのは、在宅勤務者を適切に評価する人事基準の構築だ。器作って魂入れず。日本が過去繰り返してきたたちの悪い失敗のパターンだ。この一連の課題をクリアーできた企業だけがDX(デジタルトランスフォーメーション)による実を伴った働き方変革を実現できるのだ。