2016年1月、インドネシア高速鉄道の起工式の様子。左からインドネシアのジョコ・ウィドド大統領、ひとりおいて中国の王勇国務委員、右端が中国鉄道公司の盛光祖社長。この時はインドネシアと中国との関係は良好に見えたが(写真:AP/アフロ)

(PanAsiaNews:大塚智彦)

 インドネシア外務省は6月5日、中国政府が南シナ海の海洋権益に関してインドネシアとの間で話し合いによる解決を目指して直接交渉をしたいとする提案に関して、「中国の一方的な主張に過ぎない」として即座に、そして完全に拒否するという強固な姿勢を示した。

 中国は南シナ海の大半の海域について、自国の海洋権益が及ぶ範囲として「九段線」という勝手な設定を行っている。これに対し、インドネシアやマレーシア、フィリピン、ベトナムなどの周辺国は、国際法に基づいて強く反発しているが、今回のインドネシア政府の意思表明も、この一環の中の動きで、南シナ海問題で中国に対して厳しい態度で臨む姿勢を改めて表明したと言える。

 今回のやりとりの発端となったのは、5月26日にインドネシア政府が国連のアントニオ・グテレス事務総長に宛てた書簡で「インドネシアは中国が一方的に主張する南シナ海での九段線の存在を認めていない。さらに中国が一方的に問題視しているインドネシアとの間で存在するとする海洋権益の重複についても、歴史的、国際法的にインドネシアの権益が及ぶ海域であり、なんらそれへの疑問も問題もない」と主張したことにある。

 これは南シナ海南端で、「中国の海洋権益が及ぶ」海域とインドネシア領ナツナ諸島周辺のインドネシアの排他的経済水域(EEZ)が重複している、との中国側の一方的な主張のことを示している。

国連事務総長宛の書簡巡る主張で対立

 このインドネシアのグテレス国連事務総長宛の書簡に対抗するかのように、中国は6月2日、同じくグテレス事務総長に宛てた書簡を発出し、その中で「インドネシアとの間で南シナ海に関して領有権問題は存在しないが、一部海域で海洋権益が重複する部分が存在する。この問題は2国間で今後話し合いで解決の道筋を探りたい」と主張した。

 この中国側の「領有権は存在しないが海洋権益が一部重複する海域があり、今後は2国間で協議する」との言い分に、インドネシア側は強く反発した。

「(中国は)自国の立場と主張を一方的に主張し、話し合い解決という平和的手段の模索という平和主義を装い、2国間の話し合いで解決を図ることで当事国以外の干渉を許さないという論法は、中国との間で軋轢が存在する国際問題で中国がとる外交的常套手段」であるとの判断に基づいて、「中国は相変わらず一方的に自分の都合のいいことばかり主張しているだけであり、言いがかりに過ぎない。存在しない問題に関する交渉の余地など全くない」「対話をする妥当な理由は存在しない」などとインドネシア外務省国際条約局長が地元メディアに立場を明らかにした。言ってみれば、一刀両断に中国の「交渉の提案」を拒否したのだった。

 インドネシア外務省は、こうしたインドネシアの立場は1982年の採択された「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)」に基づくものである、との主張を従来から繰り返している。