藤野英人氏と山本一郎氏が熱く語り合った

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、働き方や人との距離、ビジネス、投資などあらゆる面で、われわれの日常はコロナ前とは大きく変わってしまった。巷間、コロナと共存する「ウィズコロナ」やコロナ後の世界を指して「アフターコロナ」という言葉もあるが、そもそも今回のコロナ禍が終息し、経済が正常化するかどうかも定かではない。そのためには、ワクチン開発やウイルスの弱毒化が必要になると思われるが、少なくとも1年以上はかかるだろう。人類の英知と企業のイノベーションに期待する以外にない。

 今回のコロナによる影響は現在進行形のため、われわれの社会・経済に与える影響や今後の見通しについてはほとんど何も見えていない。現在の状況に、楽観論と悲観論が入り交じっているのはそれゆえだろう。そんな不透明な先行きに少しでも光を当てるべく、本誌は識者による対談を企画した。1207億円の純資産残高を誇る「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長と、個人投資家兼作家でITやデータ、政策論に強い山本一郎氏による対談である。「市場」に軸足を置く二人はどのような未来を見ているのだろうか。(JBpress)

外国人が干上がり始めたニセコ

──本日はリモートという形ですが、こうしてお集まりいただきありがとうございます。今日の対談の大きなテーマは、大きく言って、コロナは社会や経済にどのような影響を与えるのか、われわれの生きる世界はどのように変わっていくか、という点です。お二人はお互いのことをよくご存じだと思いますので、余計な仕切りは抜きにして、ざっくばらんに始めてください。

山本一郎

 分かりました。最近、藤野さんは拠点を東京から(神奈川県の)逗子に移しましたよね。コロナによってリモートワークの有効性が証明されて、東京にいなくても仕事ができるという文脈で捉えたのですが、実際のところはいかがでしょうか。

藤野英人

 もともと私は東京と逗子の2拠点で生活していました。その中で、これからステイホームをするんだったら、より環境のいいところ、つまり庭が広く、海や山があり、食べ物がおいしいところでステイした方がいいかなと。逗子は海が近く、新鮮な魚がとれますし、三浦半島の野菜もありますから。

 今の状況を見ていると、流通に負荷がかかって食糧が不足する事態もゼロではないと思うんですよね。今回のコロナについて、僕は長期戦を見込んでいるので、それに耐えられる場所に移ったということです。

山本一郎

 食糧不足のリスクはありますよね。自由にモノが流通しなくなり、値段以前にモノが来なくなるのを私も恐れています。

 私の場合は子どもがいるので、教育の問題があってなかなか東京から足抜けできないんですよ。学校を辞めて地方に行くという選択肢がなかなか取れない。家族会議で「東京にいても仕方がないよね」という話はしますが、じゃあ、子どもの教育はどうするのか、家はどうするのか、という話で。

藤野英人

 地方に移ったとしても、それはそれで大変だよね。

山本一郎

 JBpressで「コロナで沈没する地方の『誰を生かし、誰を殺すか』」という記事を書きましたが、これから地方経済は大変なことになるんじゃないでしょうか。

 例えば、北海道のニセコはオーストラリア人や中国人のインバウンドで活況を呈してきました。ただ、コロナの影響で中国人観光客は消滅していますし、ニセコに定住し、お金を落としていたオーストラリア人も、中国との貿易に依存していた本業がへたっており、日銭が入らなくなりつつある。

藤野英人

 定住者のキャッシュポイント(収益機会)がなくなってきたということ?

山本一郎

 そういうことです。もちろん、わざわざニセコで長期滞在するような外国の富裕層はストックはたくさんお持ちだと思いますが、フローのところが枯れてきている。それでストックを手放したいと思っても、そのストックの引き取り手がいない。いろいろ相談は受けますけど、どうしようもないんですよね。ニセコは潮が引いた後、浜辺は実はゴミだらけだったという状況です。

ニセコがある倶知安町の外国籍住民数の推移。12月時点。出所は倶知安町

「ウィズコロナ」はいつ終わる?

藤野英人

 みなさん「ウィズコロナ」「アフターコロナ」と言いますが、ウィズコロナの時代というのが人によってまちまちなんですよね。楽観的な人は秋口ぐらいで収まるというイメージですが、悲観的な人だと一生終わらないか、10年はかかると考えている。私は感染症の専門家ではないので分からないところで。

山本一郎

 分かりませんよね。風邪の一種として人間社会に定着するという前提で、ワクチンができるまで我慢するという話であれば、少なくとも2年ぐらいは待たないといけないのかもしれない。ある程度、ウイルスが変異して広く感染が行き渡れば弱毒化して風邪の一種で収まるするんじゃないかという指摘もある。正直、よく分かりません。

 ただ、目の前にブラックスワン(注:事前にほとんど予測できず、起きたときの衝撃が大きいイベントのこと)がドカンと来たのは間違いない。

藤野英人

 確かに。

山本一郎

 ブラックスワンへの対処と、その後の社会や経済をどう作るか、という点がごっちゃになっているんですよ。