新型コロナは喫煙文化にとどめを刺すか(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延が、もともと風当たりが強まっていた喫煙文化にとどめを刺すかもしれない。新型コロナウイルス感染症の重症化に致命的な影響を及ぼす可能性があるからだ。世界中のさまざまな分析によって、重症者には喫煙者が多いと分かっていた。この5月には、世界保健機関(WHO)も追認する声明を出している。

 こうした中で、たばこが新型コロナウイルス感染症の重症化を導く致命的なメカニズムもはっきりしてきた。この5月16日、世界的生物学誌である『Cell』の姉妹誌『Developmental Cell』において、米国の研究グループが研究結果の詳細を速報したのだ。今回、この研究結果などを踏まえ「たばこ文化」のこれからについて考察してみたい。

WHOは喫煙による重症化リスクを警告

 そもそも喫煙によってがんや心臓病、糖尿病になりやすくなるなど、喫煙による疾病リスクと、それを防ぐための禁煙の重要性は半ば常識的に語られていた。受動喫煙を防ぐために、飲食店で原則屋内禁煙になったのは、まさに今年4月のことだ。

 厚生労働省や日本禁煙学会などが広く宣伝しているが、たばこがなぜ体に悪いのかと言えば、約4000種類におよぶ化学物質のうち、250種類もの有害物質が体に悪影響を及ぼすからだ。その中には発がん性を持つものもあり、心筋梗塞や脳卒中といった主要な死因にも直結すると考えられている。

 新型コロナウイルス感染症においても、改めて喫煙の悪影響は注目されていた。もともと喫煙は免疫機能に悪影響を与えるため、感染症にもかかりやすくなると考えられていたからだ。事実、重症者の情報が増えてくるにつれて、喫煙者が多く含まれることが分かってきている。

 冒頭に紹介したように、5月11日、WHOが新型コロナウイルス感染症の重症化データを分析した結果、喫煙者では重症化しやすいという声明を出している。

 冒頭で紹介したように、5月16日、細胞の分析などの専門誌である『Developmental Cell』で、新型コロナウイルス感染症が喫煙で重症化するメカニズムの発表があった。

 そこで分かったのは、簡単に言えば、ウイルスが肺の細胞に侵入するためのいわば“港”をたばこが作るということだ。この“港”の存在については、今後、ウイルスの感染阻止をしていくために重要と考えられるので、少し詳しく説明する。

 口の中から入った新型コロナウイルスはどのように病気を起こすのだろうか──。この質問に対する答えは、最初はよく分かっていなかった。肺の中で悪さを起こして、呼吸困難を起こすのだろう。それで酸欠を起こして亡くなることもある。漠然と答えるとこうなるだろうか。

 そのあたりが徐々に明らかになってきている。

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大では、接触感染や飛沫感染などが指摘されている。ウイルスが付着した手などで口などをさわり、ウイルスを口や鼻から吸い込んだり、飲み込んだりして感染してしまうのだ。吸い込んだウイルスは肺の奥に入り、肺などの細胞にウイルスが侵入、そして病気につながっていく。逆に言えば、肺の細胞にウイルスが拒否されてしまえば病気は悪化しない可能性もある。

 徐々に分かってきているのは、ウイルスが肺などの細胞に入るときに、足がかりとなる存在があるということ。それが、口や鼻などから吸い込んだウイルスが停泊する“港”である。

 その正体は、肺の細胞などに存在している「アンジオテンシン転換酵素2」と呼ばれるタンパク質、略してACE2だ。一般の人にとっては、あまりピンとこないかもしれないが、「ACE」は、医療従事者の中ではなじみがある存在だ。ACEは高血圧の治療で重要な役割を果たすことで有名なのだ。