中国初の国産空母「山東」(中国軍のサイトより)

1 三沙市の新行政区

 中国共産党の国家戦略を示しているとしてよく引用されるのは、「韜光養晦(とうこうようかい)」の文言である。

 その含意は、様々に解釈されているが、国力が整うまでは国際社会で目立つことをせず、その間にじっくり国力を蓄積し、機を見て迅速に行動するという国家戦略を意味しているという。

 中国は、この戦略に基づいて4月18日に三沙市に新たな行政区を設置した。

 習近平国家主席をはじめとする中国共産党の指導部は、この国家戦略を踏襲して、米国と直接敵対関係にならない外交戦略を注意深く遂行してきた。

 しかし中国は、世界が新型コロナウイルス感染症(COVD-19)の国内対応に追われる中、そして米海軍が新型コロナウイルス感染者の発生で苦しんでいる最中に本性を露わにし、南シナ海の軍事拠点化を推進するために三沙市に行政区を新設した*1

 中国の行政区画を所管する民政府は、2020年4月18日、南シナ海の9断線内の島嶼と海域を管轄する海南省三沙市*2に新たに西沙(英語名パラセル、ベトナム名ホアンサ)群島を管轄する西沙区、南沙(英語名スプラトリー、ベトナム名チュオンサ)群島を管轄する南沙区を新設したことを発表した*3

 西沙区が置かれたウッデイ島(中国名永興島)は、自然の島に3000メートルの滑走路を島外に延長造成しており、南沙区が置かれたファイアリー・クロス礁(中国名永暑礁)は、満潮時に海面下に没する暗礁で、中国は、2000年頃から人工島を造成し、既に3000メートル級の滑走路を建設し、それぞれ軍用機やミサイルを配備している。

 国際法は、軍事拠点を目的とする人工島造成を禁止している。しかし、中国は気象観測や海難救助など非軍事的分野の施設建設であると強弁し、国際法違反を恬として恥じない。

 またCOVD-19後は、米中対立が先鋭化することは目に見えており、南シナ海での威圧的な行動に加えて、アジア太平洋における安全保障環境を悪化させている。

 COVID-19後の南シナ海では、米国の軍事力を背景とした「世界の警察官」*4の存在は極めて重要である。

*1=「国务院于近日批准,海南省三沙市设立西沙区、南沙区。三沙市西沙区管辖西沙群岛的岛礁及其海域,代管中沙群岛的岛礁及其海域,西沙区人民政府驻永兴岛。三沙市南沙区管辖南沙群岛的岛礁及其海域,南沙区人民政府驻永暑礁。」中華人民共和国民政部关于国务院批准海南省三沙市设立市辖区的公告(2020年4月18日)。

*2=三沙市は、南シナ海のパラセル島嶼、スプラトリー島嶼及びスカボロー礁などのマックレスフィールド岩礁群(中沙島嶼)を管轄する行政機関として2012年6月に設置が発表された。中国の新京報によると、三沙市の総人口は約1800人で約280の島嶼や岩礁から成り、面積は約200万平方キロという(2020年4月20日付読売新聞朝刊)。(https://map.mapbar.com/c_sansha_map

*3=BBC news(https://www.bbc.com/zhongwen/simp/world-52382529

*4=オバマ大統領は、2016年1月12日に一般演説教書の中で、もはや米国は「世界の警察官」ではないことを述べた。