スマホなどのモニターを見過ぎることで、過覚醒になる現代人は少なくない(PantherMedia/アフロイメージマート)

 前回は睡眠のメカニズムの大きな柱である体内時計について解説しました。

 多くの人に備わっている24時間10~20分のリズムがあり、放っておけば1日がどんどんずれていくので、光を浴びることや食事の時間を固定して、体内時計をリセットする必要があります。

 それが上手くいかずに、

「寝たい時間に寝られない」

「睡眠時間がまちまち」

 ということが長期間続くと、生活習慣病が悪化したり、うつ状態になったりしてしまいます(機会を改めて解説します)。

 こんな時期だからこそ、良質の睡眠をとって心身を整え、また世の中が動き出したときにしっかり動けるようにしておかなくてはいけません。体内時計のリセットは、そのために必須の作業なのです。

リモートワークで問題になる「過覚醒」

 そしてもう1つ、リモートワークや自宅待機には、睡眠に悪影響を及ぼす落とし穴があります。

 それは「過覚醒」の問題です。つまり、睡眠-覚醒のバランスが、覚醒に傾きすぎている状態です。

 これは、すべての不眠の共通因子と言っても過言ではない、現代人特有の病理です。

 順を追って解説しましょう。

 バージニア工科大学の歴史学者によれば、照明が発達する前の世界では、人は日没とともに床につき、3時間ほど寝てから夜中に短時間起き、朝方また3~4時間寝ていたそうです。睡眠のサイクルとしては必ずしも一続きではなかったのです。それが現代のようなスタイルになったのは、産業革命の後にガス灯が普及し、夜遅くまで起きていられるようになってからです(1)。

「夜遅くまで起きていられるようになった」には2つの意味があります。1つは照明があるから、本を読むなど、「活動」ができるようになったということ。

 もう1つは、「眠りたい」という欲求に「覚醒」が打ち勝つようになったということです。

 おそらく、日没とともに眠くなるのが、当時の人たちの動物としてのリズムであったのでしょう。しかし、ガス灯の登場は、人間の生活スタイルを一新させました。その原因は「照明と活動が過覚醒を起こすから」と考えられています。

 前回も解説した通り、朝の太陽光を浴びることは体内時計をリセットします。

 リセットするということは、まだ10分ぶん眠いのに、体内時計をずらしてしゃっきり覚醒させるということです。

 ですので、太陽光ほどではなかったとしても、夕方以降にまた強い光を浴びれば、やはり覚醒する方向に体内時計がずれてしまうのです。

「夕方以降の強い光」には何があるでしょうか?

 たとえば、現代では遅くまで煌々と光がともっている繁華街や、24時間光り続けているコンビニエンスストアがあります。それらの利点もたくさんありますが、純粋に睡眠という観点から言えば、マイナスの方向に作用しているのです。