東京・江戸川区が実施した「ドライブスルー方式」の模擬検査(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡り、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査をすべきか、せざるべきか。1年前にはほとんど馴染みなかったはずの、バイオテクノロジー分野の検査であるPCRに大きな関心が寄せられている。専門家の間でも、その実施をめぐって見解が分かれており、経済の停滞への懸念が高まる中でもあり、議論百出の状況になっている。

 こうした中、都内港区の東京慈恵会医科大学が集中的にPCRを実施できるセンターを設置した。そのコストパフォーマンス、スピードが圧倒的だ。同大学が設置した自前の「Team COVID-19 PCRセンター」では、1検体当たり実費700~800円で検査を行うことができる。検査依頼から完了までわずか半日だ。新型コロナウイルス感染症を対象とした保険適用の検査は最低1万3500円。日本全国で、PCRの所要日数が3~5日などと報告される中で、圧倒的なコストとスピードになっている。

 現在、国内ではいくつかの議論がある。1.保健所が必要と判断した事例に対してPCRを行う。2.医師が必要と判断した事例に限ってPCRを行う。3.患者が必要とした事例についてPCRを行う──。このような段階があり、最近は、ドライブスルーでの検査を導入する方向になっている。

 こうした状況の中で、大学で保険適用の枠組みにとらわれず、PCRを必要とあらば実施し、病院をサポートする慈恵医大の形は、院内の疑い例を広く対象とするという面で、2番と3番の中間的な位置づけとなる。PCRをどう実施していくのか、あるいは経済の停滞が大きな関心事となる中で、日本の検査の形をどのように構築していくのかを考える上で、ヒントを与えてくれそうだ。

 センターが説明する「上手い」「速い」「安い」はどういう経緯から進められているのか。今回、センターを率いる同大学熱帯医学講座教授の嘉糠洋陸氏にも話を聞き、これからの日本の進むべき方向性について考察した。

体制作りは2月から始まった

 始まりは2月である。慈恵医大では、多くの新型コロナウイルス感染者が出たダイヤモンド・プリンセス号で発症した3人の感染症患者を2月11日に収容。それ以降、新型コロナウイルス感染症の治療に取り組んだ。2月上旬には、大学では、行政での検査体制作りが遅れるだろうと予測。感染症を含めて、基本的な医学原理の研究を手がけている基礎研究関連の講座に、自前の検査体制構築を打診することになった。早速、2月14日には熱帯医学講座が新型コロナウイルス検査体制での対応に着手。以来PCR検査を自院内で実施する体制を構築した。

 転機となったのは、入院患者が新型コロナウイルス感染症を発症し、それを起点に院内21人でPCR検査陽性と確認される院内感染が発生した4月2日だ。入院のほか、外来や救急を制限し、PCR検査を拡大したのだ。検査の結果を参考にして感染防止の対策を行い、封じ込めに成功。こうした経緯から、慈恵医大では700人以上のPCRを院内で実施するに至った。その後、1日50件ほどの検査に対応するようになり、4月末には大学直轄の「PCRセンター」に発展した。

 嘉糠氏は、「慈恵医大では病院の中央検査部が通常はPCRを担う。ただ、ほかの検査があるため、時間を捻出してPCRをやろうとしても、1日で検査できる検体数は限られている。別にセンターを作り、中央検査部を支援する形にして、対応件数を引き上げた」と説明する。