食物の源を、宇宙の星々に求めることができる。

 私たちが日ごろ食べているもののほとんどは生物である。そして、多くの食材の直系の祖先は私たち人類より先に地球上に現れている。なぜヒトは「その食材」を食べることになったのか。その疑問を解くカギは、この地球上でヒトと生物がたどった進化にある。ふだん何気なく食べているさまざまな食材を、これまでにない「進化の視点」で追っていく。それぞれの食材に隠された生物進化のドラマとは・・・。

第1話:シアノバクテリア篇「イシクラゲは27億年の生物史が詰まった味だった」
第2話:棘皮動物篇「昆虫よりもウニのほうがヒトに近い生物である理由」
第3話:軟体動物篇「眼も心臓も、イカの体は驚くほどハイスペックだった」
第4話:節足動物篇「殻の脱皮で巨大化へ、生存競争に勝ったエビとカニ」
第5話:魚類篇「ヌタウナギからサメへ、太古の海が育んだ魚類の進化」
第6話:シダ植物篇「わらび餅と石炭、古生代が生んだ『黒い貴重品』」
第7話:鳥類篇「殻が固い鶏の卵は、恐竜から受け継いだものだった」
第8話:真菌類篇「酒とキノコの味わいを生んだ、共生と寄生の分解者」
第9話:被子植物と果実篇「動けない植物がとった『動物を利用する』繁殖戦略」
第10話:哺乳類・クジラ篇「“海の勝ち組”クジラが天敵・人類に狙われた理由」
第11話:哺乳類・ウシ篇「超高性能なミルク生産者、ウシに養われてきた人類」
第12話:イネ篇「栽培と備蓄、社会構造の転換を体現したイネの主食化」

<宇宙の秘密が知りたくなった、と思うと、いつのまにか自分の手は一塊の土くれをつかんでいた。そうして、ふたつの眼がじいっとそれを見つめていた。
 すると、土くれの分子の中から星雲が生まれ、その中から星と太陽とが生まれ、アミーバと三葉虫とアダムとイヴとが生まれ、それからこの自分が生まれて来るのをまざまざと見た>

 これは、今からちょうど100年前の1920年、寺田寅彦が俳句雑誌『渋柿』に書いた即興的漫筆である。まだ原子の構造も定かでなく、宇宙創成の理論など影も形もない時代に、これだけの時空を超えた発想ができた寺田寅彦の心眼には改めて感心してしまう。

 それにならって私も「宇宙進化を食べる」と題して、今回は「食と宇宙」をつなげてみようと思う。

生命誕生に必要な元素が恒星の内部でつくられる

 食塩などの調味料を除き、私たちが普段食べているものは、必ず、水素、酸素、炭素が含まれている。また、たいていは、窒素、硫黄、リンも含まれている。たとえば、大豆にはこれらすべてが含まれている。

大豆。窒素、硫黄、リンのいずれも含んでいる。