寄港先が見つからなかったクルーズ船を自国のシアヌークビルに受け入れ、乗客の下船が始まった2月14日、自ら港まで出迎えに現れ、花束を手渡されたフン・セン首相。もちろんマスクは着けていない(写真:AP/アフロ)

(PanAsiaNews;大塚 智彦)

 新型コロナウイルスの猛威にさらされ、政府がその感染拡大防止に懸命となっているのは東南アジア各国でも例外ではない。フィリピンやタイでは夜間外出禁止令や実質的な非常事態宣言、インドネシアの首都では大規模社会制限、シンガポールでは基幹産業以外の企業活動自粛など、あの手この手でウイルスとの戦いを必死に進めている。

 ところがカンボジアでは、フン・セン首相によって国際社会の流れに逆行するような政策がコロナ対策でも相次いで打ち出されており、野党や人権活動家などの間からは政権への不満とコロナウイルス感染対策への不安が高まっている。

 ただカンボジアは報道の自由や表現の自由が著しく制限された「独裁体制」。そのため実際の状況や国民の生の声がなかなか世界に伝わっていない。

首相の言葉引用しただけで記者逮捕

 カンボジアの首都プノンペンの警察は4月7日夜、Facebook上でTVFBという独自のネットニュースを運営するジャーナリストのソファン・リシー氏を逮捕した。米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が伝えた。

 逮捕容疑は刑法495条の「社会の混乱を招き、社会を危険にさらした」容疑という。リシー氏は、同日フン・セン首相が、コロナウイルスの感染拡大でバイクタクシーの運転手が失業の危機に陥っていることに触れた演説の中で、「生活が厳しく金が必要ならバイクを売ればいいだろう、政府は救済する力などない」と述べたことをそのまま引用し、Facebook上でニュースとして流した。

 ところがこれに対し情報省がクレームをつけ、警察がリシー氏を逮捕に乗り出したのだ。国家警察の報道官はRFAに対し「リシー氏の掲載内容は誇大である。フン・セン首相は単に冗談を言ったに過ぎず、それ公にしたことで社会不安を創出している」と逮捕理由を説明したという。