3月30日、緊急記者会見を開いて、バーやクラブ、カラオケ店への足り入り自粛を要請した小池百合子都知事(写真:つのだよしお/アフロ)

 長らく“待機”モードだった東京都の小池百合子知事が、突然トップスピードで稼働し始めた。新型コロナウイルスが猛威をふるう中、頻繁に記者会見を開き、良くも悪くも派手に矢を放っている。

 いち早くロックダウン(都市封鎖)に言及して都民を混乱させたかと思えば、「夜の街」の集団感染を防ぐため、徹底的な自粛キャンペーンを展開。その会見の翌31日には、安倍首相からの要請によって、コロナ対策について官邸で意見交換にも応じた。コロナ対策においては首相よりも存在感を見せているのでは、と思わせるほどだ。

 大衆扇動の才能が危機の局面で役立っている節もある。新型コロナウイルス封じ込めの救世主になろうとする野心ものぞく。

「夜の街」封鎖作戦

「感染経路が不明な症例のうち、夜間から早朝にかけて営業しているバー、ナイトクラブ、酒場など接客を伴う飲食業の場で感染したと疑われる事例が多発している。都民にはこうした場への出入りを控えていただくようお願いしたい」

 3月30日夜、小池氏が都庁内で記者会見を開いた。ポイントは「夜の街へ行かないで!」。都民が納得できる、わかりやすいメッセージである。無意識に飲みに行く中高年や若者たちの動きを止めることは今や最大のコロナ対策といえる。

 一方、夜の街からすれば凄まじいダメージだ。小池氏が念頭に置いているのは女性が接待する店舗、すなわち「密接、密閉、密集」になりやすいクラブ、キャバクラ、スナックだ。店側からすれば、命に代えられないことはわかっているが、「補償がないのに営業はやめられない。こっちは生活がかかっている」という理屈がある。本来なら、補償や経済支援をセットにしないと「夜の街」の自粛、封鎖は難しい。このままでは倒産・廃業が続出し、ネオン街が壊滅してしまう。

 しかし、小池氏に躊躇はない。具体的な補償の枠組みや支援策についても、まだほとんど触れていない。封じ込めに効果があり、都民の支持があれば経済活動が止まってもいい。命と医療体制の維持が優先である――。小池氏の判断は冷酷だが、冷静でもある。