武漢市を訪問した中国の習近平国家主席(3月10日、写真:新華社/アフロ)

 危機管理の初動対処にとり最も大切な要件は、正確な情報の伝達と共有である。

 それがなければ、危機の実態を把握するのが遅れ、また対処行動をとっても的確な判断ができず、成果につながらない。結果的に初動対処に後れをとり、危機を拡大させてしまうことになる。

 その点では、独裁的体制は一見堅固なようでも、危機には脆い面も抱えている。

 そのためにかえって、情報を隠蔽し事実を歪曲して、何とか独裁体制の面子を保ち、権力の正統性を守ることに躍起になる。

 今回のコロナウイルス問題への対応でも、中国共産党は独裁体制の欺瞞性と脆弱性を露呈した。

武漢市党委員会の情報隠蔽と証拠隠滅招いた習近平独裁強化

 昨年の12月1日には、武漢の海鮮市場において41例の感染症患者の発生が確認されていたが、そのうちの約3分の1は海鮮市場には接触していなかったことが、今年1月24日の医学専門誌『ランセット』の論文で明らかにされている。

 すなわち、昨年12月1日にはヒトからヒトへの感染があることは確認されていた。これはパンデミックになりかねない新型ウイルスの出現を意味していた。

 SARSの教訓を踏まえて、このような新型の感染症が起きれば、WHO(世界保健機関)を通じ、直ちに国民と世界に対して、その脅威を警告することが国際合意になっていた。

 それにもかかわらず、またも自らが新型感染症の発生源となりながら、中国当局は、初動における感染拡大阻止のための最も重要な責務を果たさなかった。それがパンデミックを招く元凶となった。

 12月8日には最初の患者発生が世界に報じられた。新型の感染症の発生については知られるようになったが、ヒトからヒトへの感染の事実はないとされた。

 この最初の時点から、情報隠蔽はすでに始まっていた。

 12月16日には、上海の感染予防センターがサンプルを採りに武漢に赴いており、その結果は1月5日には報告されている。

 北京の党中央はこの時点で、コロナウイルスの発生については、少なくとも報告を受けていたはずである。