羽田空港で米国政府チャーター機に搭乗するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の米国人乗客(2020年2月17日、写真:ロイター/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

 安倍政権にとって唯一の国防戦略は「日米同盟の強化という名目のもとでアメリカにすがりつく」ことである。しかし中国武漢で発生した新型コロナウイルスの影響で、その戦略にはさらに分厚い暗雲が立ち込めるようになった。

 日本は新型コロナウイルスに対する水際対策に失敗しただけでなく、日本政府が主権を行使する水域でのクルーズ船に対する対処も杜撰ぶりをさらけ出した。日本のこうした対応により、日米共同作戦が想定されるような有事における日本政府の危機管理能力と被害管理能力が極めて低いことが白日の下にさらされ、「頼りにならない同盟国、日本」というイメージがさらに増幅されたことは間違いないからである。

新型ウイルス対処に関する日米共同机上演習

 東日本大震災が発生する数年前から、アメリカ国防当局は同盟国日本の「CBRNE」(シーバーン)対処能力に不安を感じていた。CBRNE対処能力とは、化学(Chemical)・生物(Biological)・放射性物質(Radiological)・核(Nuclear)・高威力爆発物(high yield Explosive)による攻撃や事故に対する危機管理能力と被害管理能力を意味している。

 もし、日本周辺有事の際に日本領域内でCBRNE攻撃や事故が発生し、日本当局によって速やかにかつ適切に処理できなかった場合、日米共同作戦に障害が生ずるだけでなく、日本に滞在している米国市民や在日米軍関係者にも被害が生じかねない。しかしながら、防衛省自衛隊だけでなく厚生労働省や警察機関をはじめとする日本政府当局には米軍やNATOなどの準備態勢に比べるとかなりレベルが低い能力しか備わっていないと米国防当局は判断した。

 そこで、在日米軍司令部が主催する形で、太平洋軍司令部や国防総省国防脅威削減局のエキスパートたちを日本に送り込み、防衛省自衛隊に加えてCBRNE対処では主導的役割を果たさねばならない厚生労働省や警察機関をはじめとする日本政府当局者たちに対するセミナーと机上合同演習などを、数年間にわたって(筆者の記憶では2005年から2009年にかけて)実施した。