昨年11月4日のASEAN首脳会議・関連会合の際のジョコ・ウィドド大統領(左)と安倍晋三首相(写真:AP/アフロ)

(PanAsiaNews:大塚智彦)

 インドネシアの「国家汚職撲滅委員会(KPK)」がジョコ・ウィドド大統領の支持母体であり最大与党でもある「闘争民主党(PDIP)」の政治家が関与する汚職の摘発に乗り出し、関係者の逮捕に踏み切った。

 KPKは昨年の関連法改正で、その強力な捜査権力が削がれ弱体化されたとして、国民の失望を買っていた。

 ところが与党政治家と、あろうことか中央選挙管理委員会(KPU)が関係した贈収賄事件で国会議員選挙の繰り上げ当選を巡る汚職にメスを入れる捜査に着手したことで、「KPKは死んでいない」「なかなかやるじゃないか」という高い評価を再び受けているのだ。

 インドネシアでは1998年にアジア通貨危機の影響や民主化のうねりの中で崩壊したかつてのスハルト独裁政権時代の悪弊の残滓で警察や検察などには依然として不公正、不公平な体質が蔓延っているとされる。

 そんな中、インドネシア最強の捜査機関として国民の尊敬と信頼を集めていたのがKPKと「国家麻薬取締局(BNN)」だった。

 大物権力者の汚職、麻薬関連事犯の摘発にKPKとBNNは容赦なく取り組み、逮捕・公訴権があることから現職の閣僚や国会議員、官庁の幹部職員、政党幹部、大使、政党要人、芸能人などを次々と逮捕・起訴して有罪判決に持ち込む実績を積み上げていた。

 1月20日には収賄容疑に問われた与党「開発統一党(PPP)」の前党首ムハンマド・ロマフルムジ被告に対し、汚職裁判所が判決公判で禁固2年と罰金1億ルピア(約80万円)の実刑判決を言い渡している。

国会議員の思惑で牙の抜かれたKPK

 こうした絶大な力を持っていたKPKだが、2019年9月に国会でKPK改正法が国会議員による賛成多数で可決されてしまった。(9月18日、「インドネシア、汚職捜査機関が『骨抜き』の危機に」参照)

 その可決された法の主な改正点は①KPKを監視監督する監査評議会設置、②職員を公務員から採用、③捜査開始から1年以内に容疑者の逮捕・起訴ができない場合の捜査終了、④捜査上必要な盗聴などの通信傍受は外部機関に許可を申請、⑤公訴は最高検と調整することを義務化、などだった。