小池百合子東京都知事(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

(黒木 亮:作家)

 ここ数年、「桜を見る会」疑惑のように、権力の座にある政治家が、検証が難しいことには徹底して嘘をつくケースが増えているように感じる。この風潮には憤りを禁じ得ない。そして、世間が忘れかけている疑惑がもう一つある。小池百合子東京都知事のカイロ大学文学部社会学科卒業に関する学歴詐称疑惑だ。

 小池氏の「学歴詐称疑惑」は、以前から囁かれており、週刊誌などでも取り上げられたが、決定的な証拠を突き付けるまでには至らなかった。そうした中、「文藝春秋」2018年7月号に掲載された『小池百合子「虚飾の履歴書」』(筆者・石井妙子、以下『虚飾の履歴書』)は、疑惑の核心に肉迫するレポートだった。

「カイロ大卒」の真偽を現地エジプトで徹底取材

『虚飾の履歴書』では、カイロで小池氏と同居していた日本人女性(以下「同居女性」)が、当時の小池氏の暮らしぶり、小池氏が1976年5月の進級試験に合格できず、その時点で4年生にもなっていなかったので追試も受けられなかったこと、卒業できないまま日本に帰国したにもかかわらず、カイロ大学文学部社会学科首席卒業という肩書を使い始めたこと、卒業したと日本で嘘をついてきたのをケロっとして認めたことなどを証言している。その内容は同居女性の手帳の日記と母親にあてた多数の手紙によって裏付けられているという(手紙に日付の消印があれば裁判で証拠能力を持つ)。

 この証言は非常に重大である。もし事実なら小池氏は選挙のたびに選挙公報に虚偽の経歴を記載して有権者を欺き、公職選挙法違反や偽造私文書行使等という犯罪を重ねてきたことになる。

 これに対して小池氏は、記事発表後の記者会見で示唆した法的手段を取るどころか、説明も、反論らしい反論もしていない。何かにつけて多弁で、気に入らないことには強硬に反論する小池氏の性格から言って、きわめて不可解な態度である。

 しかし、アラビア語やエジプト事情に疎い日本のメディアは疑惑の追及に消極的で、今まで小池氏の煙に巻かれてきた。筆者はアラビア語を学び、エジプトの大学(カイロ・アメリカン大学大学院中東研究科)を卒業した者の責務として、複数回の現地取材を含む調査でこの疑惑を徹底研究した。その結果、小池氏がカイロ大学の卒業要件を満たして卒業したという証拠、印象、片鱗は何一つ見出せなかった。

 本稿では6回にわたり、これまで他のメディアが報じていない、不正入学疑惑、エジプトの大学による“不正卒業証書”発行の歴史、小池氏の庇護者だったアブデル・カーデル・ハーテム氏の思惑、カイロ大学やエジプト政府の実態と思惑なども詳述していく。果たして小池氏がこれまで公表してきた経歴は信用するに値するものなのか、読者に判断材料を提供したい。