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(篠原 信:農業研究者)

「背中を押してあげる」という言葉は、部下育成の記事のみならず、育児本でも多用されている。勇気が持てずにためらっている部下や子どもの背中を押してあげるのは、上司や教師、親の役割だと捉えられている。

 だが、背中を押せば押すほど相手はやる気を失い、おびえ、逃げ出してしまうという経験をしたことはないだろうか。「君ならできるよ、やってごらんよ」と言えば言うほど、「いやできない」、「実はこんな事情もあって」とか逃げ口上がどんどん出てきて、最後には逃げられてしまう。

励ましか、それとも・・・

 子どもも同様。木登りさせようとしたら、怖がって降りようとする。「大丈夫だから、もうちょっと頑張ってごらん」と励ませば励ますほどおびえて降りようとする。背中を押せば押すほど腰が引けてしまう現象を、皆さんも感じたことがあるはずだ。

 すると、上司や親、教師は面白くない。せっかく応援しているのに、できるはずだと信頼しているのに、挑戦しないなんて、と、つい不満顔。するとそれが部下や子どもに伝わってしまい、「やりたくない」と言ってしまう。それが指導者にとってはさらに不満のタネになり、「こいつは気が弱くてダメだ」と烙印を押す。そんな烙印を押される羽目になった事柄に、部下も子どもも「嫌いだ」となり、以後、苦手意識を持ってしまう。

 筆者は、小さな子どもを見ていて、不思議に思う。幼児は誰も、言葉を話すのが苦手、立つのが苦手、歩くのが苦手、なんて考えない。なるほど、言葉を話し始めるのが遅い早いはある。立つのが遅い早い、歩き始めるのが遅い早いもある。けれど、幼児は果敢に挑戦し続け、それらの難関を克服する。言語を操ったり、立ったり歩いたりという行為は、人工知能やロボットがこれだけ発達した現在でも、非常に高度で難しい行為だ。なのに、苦手意識も持たずに取り組んでいく。この学習意欲の高さは、大人になるまでにどうして失われてしまうのだろう。