昨年6月、第21回上海国際映画祭に登場した沢尻エリカ(写真:Imaginechina/アフロ)

(尾藤 克之:コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)

 2019年は、ピエール瀧、田口淳之介(元KAT-TUN)、岡崎聡子(元五輪選手)、國母和宏(元五輪選手)、田代まさし、沢尻エリカなど薬物関連による著名人の逮捕が相次いだ年となりました。あってはならないことですが、違法薬物は私たちの周囲に確実に浸透しています。そして、それを常用する人も増えています。こうした状況で、私たちは薬物問題をどのように理解すべきなのでしょうか。

 今回は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表で、依存症問題に詳しい田中紀子さんのコメントを交えながら、薬物問題の問題点について考察してみたいと思います。

問題報道を流布するワイドショー

 以前、芸能人の逮捕を受けてワイドショーで、「薬物更生プログラムを続けている限り、その間に薬物の再使用があっても犯罪として処罰しない」という対策を提案した弁護士がいました。この提案に、猛反対したのが番組の司会者でした。

 しかし、このような依存症の専門知識がない人の意見には問題も多いと田中さんは指摘します。

「司会者は『治療してた方がずっと(薬物を)やれちゃうじゃん』と極端なことを言い出しました。弁護士は『治療中に再発したら何らかの処罰は受けます』ときちんと説明していたのに、司会者は『おかしなことを言ってる』『絶対反対』と頭ごなしに否定していました。こうした態度は、依存症の回復プログラムを続けている私たちへの冒とくで憤りを覚えます。

 中には『再犯の薬物依存症者は10年でも20年でも刑務所に入れろ』などと言う人もいますが、そんなことをしたら刑務所があふれ返り、とんでもない税金がかかる上、刑務所に閉じ込めていても病気は治りませんから、出てきた途端に再発します。刑務所は年間400万円ほどの税負担ですが、治療ならその半分以下の負担で済みます。そしてなにより、再犯者率はずっと少なくなるのです」(田中さん)

 また、別のワイドショーではある放火殺人事件の犯人について、「薬物ってことは考えられないんですか?」などと、覚醒剤の知識のない人が素人発言をしていたことがありました。

「覚醒剤を使いながら仕事をしていた官僚がいたことからも分かるように、覚醒剤を使う人が特殊なわけでも、覚醒剤を使うと明らかに特殊なことをやり出すわけでもありません。そもそも、一人の人間が凶悪犯罪に至るまでには、その人生で長い間の経過があり、要因は複雑に絡まり合っているものです。原因を薬物だけに特定できるわけがありません」(田中さん)

 さきほどのワイドショーのようなコメントが発せられる背景には、薬物の影響が原因と決め付けると事件全体を説明しやすくなることがあるように思います。しかし事件を正しく把握するためには、事件の陰にある心の問題や人間関係、成育歴など深く要因をもっと分析する必要があると、田中さんは警鐘を鳴らします。