社員の「幸福度」で変わる創造性・生産性・売り上げ

幸福学の視点から働き方改革の在り方を読み解く

沢井 圭吾/2019.12.11

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慶應義塾大学 大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授
ウェルビーイングリサーチセンター長 前野隆司氏

 ビジネス環境が大きく変化し、先の見えない時代になりつつあります。従来型の組織やマネジメントスタイルの限界も指摘されています。こうした中、最近になって社員の「幸福度」という考え方が注目されるようになっています。社員が幸せな会社は業績面でも好調だというのです。そのポイントはどこにあるのでしょうか。幸福学研究の第一人者である慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授に聞きました。

「幸せとは何か」をデータやエビデンスに
基づいて明らかに

――前野先生は脳科学やロボットの研究がご専門ですが、その一方で、早くから「幸福学」の研究にも取り組んでいらっしゃいます。そもそも「幸福学」とはどのような学問なのでしょうか。

前野隆司氏(以下、前野氏) 読んで字のごとく、幸せについての学問です。「幸せとは何か」についての研究は古くから世界中で行われてきました。しかしその多くは哲学者や宗教家によるもので、学問として体系化されていませんでした。私はロボットの研究をする課程で、人の「心のメカニズム」を知りたいと思うようになりました。その上で、「幸せとは何か」を心理学のデータやエビデンスに基づいて明らかにすることで、社会の役に立つものにしたいと考えたのです。研究を始めてから10年以上になりますが、最近では欧米でも「ウェルビーイング(well-being)*」という概念が注目されるようになっています。

 また、日本でも、企業において「働き方改革」の必要性が高まっています。残業時間を削減するだけでなく、社員のやる気やモチベーションを引き出すためには、社員が幸せであることが大事なのではないかという考え方の広がりを受け、「幸福学」に関心を持つ企業や経営者も増えています。

*「幸せ」「健康」「福利」などと和訳される。文字通り解釈すると「良き在り方」ないしは「良い状態」という意味。人々が、精神的、身体的、社会的に「良き在り方」「良い状態」であること。

――「幸せとは何か」をデータやエビデンスに基づいて明らかにするとのことですが、実際に可視化することはできたのでしょうか。

前野氏 幸せの心的特性の全体像を明らかにするために、29項目87個の質問を作成し、日本人1,500人に対してインターネットでアンケート調査を行いました。その結果を因子分析したところ、人が幸せになるために必要な「4つの因子」が導き出されました。その因子とは、「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)、「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)、「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)、「ありのままに!」因子(独立と自分らしさの因子)の4つです。

「やってみよう!」因子は、やりがいです。たとえば、一見するとルーティンでつまらないと思えるような仕事でも、そこに新しい価値を見いだし、業務改善などに果敢に挑戦することで、仕事が面白くなるという因子です。

「ありがとう!」因子は人と人との関係性の因子です。「このプロジェクトは俺がいたから成功した」と主張する人がいますが、それよりも「チームのメンバーが力を合わせたからこそ実現できた」、その結果「お客さんに感謝された」といった他者とのつながりを理解することで幸せを感じることができます。

「なんとかなる!」因子は、その名のとおり前向きさと楽観性の因子です。失敗したり困難に直面したりしても、それを受容し気持ちを切り替えることで幸せになることができます。

 最後の「ありのままに!」因子は、「自分らしく過ごす」ことを表す因子です。他者と比較するのではなく、ありのままの自分を受け入れることが幸せにつながります。部下であれば、一人ひとりの創造性を育て発揮させるという視点で教育をする方が成果が出やすいのです。