北斉時代の男子(Wikipediaより)

 紀元前の中国・前漢の時代に、皇帝の教育用の書が編纂された。書名は「説苑(ぜいえん)」。「虻蜂(あぶはち)取らず」「後悔先に立たず」「人の心は金しだい」など誰もが知る説話が収録された歴史故事集である。編纂した劉向(りゅうきょう)とは一体どんな人物でどのような生涯を送ったのか。『説苑』(池田秀三著、講談社学術文庫)から、その人物像にスポットをあてて紹介する。(JBpress)

(※)本稿は『説苑』(池田秀三著、講談社学術文庫)の一部を抜粋・再編集したものです。

説苑(ぜいえん)

 上代より前漢中期までの故事説話集。前漢の劉向(りゅうきょう)の編で、『新序』とともに皇帝の教育用に作られた。

 もともと『説苑雑事』という書物があったらしいが、劉向はそれをもととして取捨選択し、大幅な増補を加えて内容別に整理したうえ、各篇に序文をつけた。

 つまりこの書物は劉向自身の見識による編纂物(へんさんぶつ)であって、彼は説話を通して自己の政治的主張を述べようとしたのである。

 君道・臣術・建本・立節・貴徳・復恩・政理・尊賢・正諫・敬慎・善説・奉使・権謀・至公・指武・談叢・雑言・弁物・修文・反質の20篇より成り、思想内容はだいたい篇名どおりであるが、全体の基調をなすのは尊賢論と節倹論である。

 個々の説話は他書と一致するものが多く、諸子百家すべての系統の話が収録されていて、その意味では雑家的であるが、その根底にあって全体を統一しているのは儒家思想である。

 この文章は、数年前、ある辞典(日原利国編『中国思想辞典』、研文出版、1984年、一部修正)のために書いたものであるが、私が『説苑』について述べたいことがらは、この文章にほぼつきている。